資格複数保持者の憂鬱
まず資格を多数取るということは、それだけ時間と労力がかかります。行政書士、社会保険労務士、税理士、司法書士と取得しようと考えれば、稀代の天才を除けばどう考えても5年以上かかります。試験には「ツキ」もありますので、望んでいなかったとしても10年以上かかってしまう場合もあるでしょう。ですから、これから複数の資格取得を考えている人は、「時間を膨大に使う」という認識を持ってください。
そして本題の「複数の資格を持っていれば成功できるか?」については、「ビジネスの成功確率」という点で考えれば資格取得数と成功確率は関係しません。問題は、「多数の資格を持っていることが、成功確率を高めるか」ということですが、複数資格保持者には有利になる点と尽きない悩みがあります。
有利になる点は、いわゆるワンストップサービスが可能になることです。
一度依頼をもらえば、関連する仕事はすべて自分の事務所で受けることが可能になります。司法書士として会社の設立手続きを受ければ、社労士として社会保険・労働保険の手続きをし、そして税理士として顧問になるのです。ひとりで事務所を経営する間はキャパシティの問題もあるので限界も早いといえますが、1回で取れる仕事は大きくなりますし、また組織化ができれば事務所の拡大も可能でしょう。
一方で、デメリットもあります。
資格の保持数が多ければ多いほど、他士業からの紹介率は下がります。これはおおむね取得した資格の数と比例すると断定してもよいでしょう。たとえば、行政書士が社労士に仕事を紹介する場合、暗黙の了解として「行政書士の仕事も紹介してほしい」という気持ちの伝達があります。特に、他士業間での仕事の紹介発生率は非常に高く、開業間もないうちはそういった紹介は重宝するでしょう。
このように、複数の資格を保持するワンストップサービス事務所は、営業面で他と連携せずに独自に行うことが求められます。シビアに聞こえるかもしれませんが、もしあなたが誰の力も借りずに、自分の力だけで成し遂げたいと決意していたら、複数資格を持って事務所経営をするのも決して悪いこととはいえないでしょう。
そもそもの目的を忘れてはいけないしかし、それ以上に重要なことがあります。それは、そもそもの「目的」です。
もし、あなたがさまざまな資格を取って、ワンストップサービスの事務所を創業することを当初の目的とするのであれば、あなたにとって複数の資格は必要なものといえます。この場合は自分にとって必要な資格を取っていけばよいでしょう。
これに対して、「資格がひとつだと心配だからもっと資格を取る」「先輩にアドバイスされたから資格を増やしたい」というのは、本来の目的を忘れてしまっています。
そもそも、あなたは何のために資格を取ったのか。どんな仕事をしたかったのか。こういった「目的」や「目標」を忘れてしまうことで、他人の意見にも左右されやすくなるのです。
もし迷ったときは、「なぜその資格を取ろうと思い、その資格を取ったのか」という原点に返って考えてみることが重要です。前述のとおり複数資格の事務所のビジネスの成功確率は、資格の数との関連性はありません。ぜひ、あなたの意思を尊重して、決断してください。
■
横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士 1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。 会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚
■ 資格さえ取れば食べていける?士業コンサルタントが教えるビジネスとしての「資格業」 (横須賀輝尚 経営コンサルタント) ■ 報酬以上の結果を得るために経営者が知るべき、士業のうまい使い方(横須賀輝尚 経営コンサルタント) ■ 倒産は”悪”なのか?(横須賀輝尚 経営コンサルタント) ■ 士業専門コンサルタントが教える、補助金コンサルタントの活用 (横須賀輝尚 経営コンサルタント) ■ なぜJALの会社更生法適用は叩かれた? なぜ倒産で社長が自己破産? 意外と知らない「倒産」の仕組み(横須賀輝尚 経営コンサルタント)
編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年7月10日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。