子供を産み、育てることは負担もあるが、大きな喜びがある。だから、女性は悩む。そして自身のキャリアを優先して子供を産まず、社会で活躍している女性は大きな十字架を背負っているような心持ちかもしれない。そのような女性に対し、「子供を産まないことは女性の役割の放棄だ」といった批判はやはり早計のそしりを免れない。

ドイツでは「キリスト教民主同盟」(CDU)の党首を務め、16年間政権を担当したアンゲラ・メルケル女史(首相在任2005~2021年)の事を思い出す。彼女も子供がない。現夫と2人暮らしだ。政権中も野党から「子供を産んだことがない首相がどうして家庭の問題を解決できるか」と度々呟かれた。その時、メルケル氏はその批判に直接答えたということは聞かない。短い時間で相手に理解してもらうことは難しいからだろう。

オーストリアでは野党のリベラル派政党「ネオス」のベアテ・マインル=ライジンガー党首が2019年、クローネTVでのインタビューの中で「子供のいない政治家に統治されたくはない。子供への責任を担うということを知っている政治家に政治を委ねたい」と述べたのだ。同党首は3人の娘さんをもつ。同党首の発言も批判に晒された。同党首は批判を受けた直後、「発言は間違っていた」と謝罪し、訂正した。

「子供を産んだことがない」というセンテンスは別に政治の世界だけではない。日常の生活の中にも聞かれる。「子供の話がでるので自分はそのコミュニティには参加したくない」と話していた中年女性を知っている。子供ができない夫婦への社会の目は決して常に暖かいというわけではないからだ。

米国社会の混乱、分裂は家庭の崩壊が大きな原因だ。過度の資本主義社会の中で生きている国民は物質的には恵まれているが、精神的には惨めな状況に生きている人が多い。それゆえに、米国社会には伝統的な家庭観、結婚観への需要はあるはずだ。

言葉は人を感動させるが、消すことが出来ない痛みを与える武器ともなる。米大統領選が中傷、誹謗で終始するのではなく、家庭とは、結婚とは、といった今最も考えるべきテーマを争点にホットな議論を展開してほしい。トランプ氏から副大統領候補者に選出されたバンス氏(39)は政治家になってまだ年月が浅いが、共和党の将来を担っていく政治家として期待されている。バンス氏の活躍を期待する。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。