ここに紹介した文士が活躍していた時代の日本において、羊羹は、それなりに高価な菓子だったに違いなく、そうでなければ高価な食器に盛られて供されることもなかったはずである。つまり、羊羹はモノとして高い価値をもっていたのである。しかし、これらの創作をなした芸術家は、知識社会の最上層にあるものとして、時代の文化を代表するものとして、名声を有し、経済的にも十分に裕福であって、もはや羊羹を単なるモノとして賞味する段階にはなかったということである。

つまり、知的にも経済的にも豊かな社会層においては、モノはモノの価値としては消費され得ず、何らかのコトに転換されて、より高次の価値として消費されるわけであって、例えば、羊羹は、様々に異なる状況において、それに適合した器に盛られ、それに相応しい方法で供されるコトを必要とし、そこで創造される美的感興というコトを楽しむものでなければならないのである。

森本 紀行 HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 HC公式ウェブサイト:fromHC twitter:nmorimoto_HC facebook:森本 紀行