例えば台湾のTSMCは世界で最も注目される半導体メーカーでトヨタの時価総額の3倍以上の160兆円規模ですが、大きなリスクを背負っている会社でもあります。それはTSMCが将来アメリカと中国どちらを向いて仕事をするのか、であります。半導体のような戦略性の高い製品の場合、今のように両方にいい顔というのは政治的にも難しく、今後、強い選択を迫られるかもしれません。そのため、同社が高いコストをかけてアメリカに工場を作っているのも「顔つなぎ代」であると考えています。つまり、巨額の投資をしていますが、個人的にはアメリカで儲かる半導体事業経営ができるとは考えにくいのです。特に日進月歩の技術の中にあって工場建設は古典的なペースでしか進みません。その間、中国は同社を取り込もうと画策するでしょう。これがあるので世界を見据えた投資をしなくてはいけないと考えているのです。

世界は二分化、ないし三分化しつつあります。民主主義、権威主義、そしてグローバルサウスです。それぞれが対比語になっていないところがミソなのですが、もっとわかりやすい言い方にすると体制主流派、反体制派、新興勢力とした方がよいのかもしれません。体制主流派と反体制派の関係は共産主義発生からスタートし、形を変えながらアンチアメリカが醸成されたといえます。

特にこの傾向が強まったのはパクスアメリカーナの反動が大きいと考えています。つまり、ソ連が崩壊するも中国が台頭し、アメリカ覇権主義がそれを抑えようとする動きです。時代は前後しますが、911のテロが起きたのもアンチアメリカが世界に非常に多いということは理解する必要があります。

そしてグローバルサウスという新興勢力はパワーゲームにつきあい、どちらかの勢力図に入ることが得策ではないと考えはじめたともいえます。これが思った以上に台頭してきています。このように分極化する世界において投資は日欧米のマネーはもともとは地球規模だったものが体制主流派というパイにまで縮小するリスクはあるのだろうと考えます。例えばアメリカの国債はいつまでも様々な国が喜んで買うという常識が通じなくなるかもしれないと考えています。

現在、三極で価値のバイアスが起きにくい投資対象は金(ゴールド)や資源、農作物を含む商品、および仮想通貨であります。それ以外は政治色が非常に強くなり、投資選別の対象になると考えてよいでしょう。

ところで農林中金が米欧債で10兆円規模売却し、1.5兆円の損失を計上すると報じられています。これはよくわからないです。欧米の金利がピークに達しており、いよいよ下落場面に入る、つまり国債価格が上昇し、金利が下がる局面に入る矢先にわざわざ今売るのかな、という気がします。国債投資は安全とされたものの欧米の急激な金利政策の変化に日本の金融機関は手痛い思いをしたのですが、グローバルなマネーの動きからすると今回の売却方針で株主の理解が得られるのか気になるところです。

マネーはうろつきます。そして時として津波のように一気に押し寄せるのですが、今後は一定のリスクヘッジをすることを考えたほうが良いとみています。それぐらい世界は不安定でいつ何が起きるのかわからない、そんな恐怖感すらあるのが今日の経済であるとも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月25日の記事より転載させていただきました。