もっともアメリカでは、反イスラエルの姿勢は、政治のメインストリームから外れてしまう印象を作り出す。政界・財界からの支援に、見えない制約は出てくるだろう。

ネタニヤフ首相は、わざわざフロリダまで足を延ばし、7月26日に、私邸でトランプ氏と面談した。トランプ氏は、ハリス氏の態度を「非礼だ」と描写したという。

トランプ氏は、自らの親イスラエル寄りの姿勢にもかかわらず、2020年の大統領選挙直後にバイデン大統領との関係構築に動いたネタニヤフ首相を快く思っていないとされる。2020年大統領選挙後には、ネタニヤフ氏に対する批判的な言動も目立った。しかし現状では、ネタニヤフ氏は、明らかにトランプ氏を頼っている。

トランプ氏としては、選挙におけるユダヤ系の票のみならず、イスラエル・ロビーの支援を固めるために、ネタニヤフ氏のラブコールを余裕で受け入れることが利益だ。26日にネタニヤフ氏と会った際には、「中東に平和をもたらし、全米の大学キャンパスに広がる反ユダヤ主義と闘う」と述べたという。

実際には、トランプ氏は、これまでの一連の発言を整理すると、ハマス殲滅の目標を共有しながら、人質解放交渉に専心することによって早期の停戦合意を達成したい意向を持っているとみられる。

トランプ氏は、中東の不安定化はバイデン政権の失策が原因だと批判してきている。自分が大統領に返り咲けば、「中東に平和をもたらす」とも強調している。ハリス副大統領が勝利すれば「第3次世界大戦が起きるかもしれない」と述べたとも報道されている。

いつもの通りの誇張気味の表現だが、長期化しているガザの戦争に満足しておらず、ウクライナの場合と同様に、早期に平和をもたらす人物として、有権者にアピールしたいと思っているようだ。

こうしたトランプ氏の発言は、トランプ氏が必ずしもネタニヤフ首相と一心同体ではなく、ネタニヤフの次の首相をにらんでいることも示唆している。

恐らくはメディアが図式化して報道しているほどには、ハリス氏とトランプ氏の中東政策の間に差異はない。違いは、言葉の表現から生じるイメージによるところが大きく、それはかなりの程度に選挙を意識して操作されているものだ。

もちろん少しの差異が、大きな結果の違いをもたらすことは、常に可能性としてはありうる。だがどちらがどのような結果をもたらすのかについては、簡単には予測できない。イスラエルがアメリカを頼っているのは確かだが、それでもアメリカに従順だと言えるほどではなく、イスラエル以外の中東諸国に対するアメリカの影響力は、目に見えて減退しているからだ。

たとえば、ネタニヤフ首相とバイデン大統領の会談は、ほとんどサイドショーのようになってしまっている。実質的な政策論には、全く進展がない。

バイデン大統領と会談するネタニヤフ首相 同首相インスタグラムより

バイデン政権の時期にガザ危機が進行し、その渦中で、アブラハム合意派を含む中東のエジプト、UAE、サウジアラビア、そしてイランという地域有力諸国が、今年からBRICSに加入した。この新しい体制での初めての首脳会議が、ロシアで10月に開催される。主要な議題は、ドル基軸通貨体制への挑戦である。それまでにガザ危機が終息している見通しはない。事態の展開に、注視が必要である。