大学の都心部へのキャンパス移転、いわゆる「都心回帰」が進むなか、文系5学部の1~2年次の課程を朝霞キャンパス(埼玉県朝霞市)から白山キャンパス(東京都文京区)に移転させた東洋大学の志願者が増加して10万人を突破したことが話題を呼んでいる。なぜ大学は都心回帰を急ぐのか。また、志願者の増加につながるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 2000年代に入って顕著になり始めた大学の都心部への回帰。当初、大きく注目されたのが中央大学法学部の多摩キャンパス(東京都八王子市)から都心への移転だ。中央大学はかつて東京都千代田区の駿河台にあったが、1978年に多摩に移転。だが2015年に看板学部である法学部を東京都心に移転させると発表し、23年に茗荷谷キャンパス(東京都文京区)に移転した。

 その他の大学でも都心へキャンパスを移転させる動きは盛んだ。共立女子大学は06年、八王子キャンパスにあった全学部の1〜2年次の課程を神田一ツ橋キャンパス(東京都千代田区)に集約。跡見学園女子大は08年、新座キャンパス(埼玉県朝霞市)にあった3〜4年次課程を文京キャンパス(東京都文京区)に移転。青山学院大学は13年、文系7学部の1~2年次の課程を相模原キャンパス(神奈川県相模原市)から青山キャンパス(東京都渋谷区)に移転。東京理科大学は25年、薬学部を野田キャンパス(千葉県野田市)から葛飾キャンパス(東京都葛飾区)に移転させる予定だ。

 移転は首都圏以外でも活発だ。同志社大学は13年、文系4学部の1〜2年次課程を京田辺キャンパス(京都府京田辺市)から京都市の中心部にある今出川キャンパス(京都市上京区)に移転。立命館大学は今年4月、映像学部と情報理工学部を大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)へ移転。近畿大学は25年、医学部を大阪府大阪狭山市から堺市へ移転させる予定だ。

都心回帰は志願者の増加に結び付くのか

 大学が都心回帰を進めている理由は何か。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。

「受験生へのアピールにつながるからです。1990年代以前の私立大学は、大学進学率が大幅に上昇していました。そのため、都心のキャンパスだけでは学生数の増加に対応できず、加えて当時は工場等制限法により、都市部でキャンパスを拡大することが困難でした。そこで、郊外にキャンパスを新設していくことが一般的でした。これは、郊外の自治体が大学を誘致したことも影響しています。

 しかし、工場等制限法は2002年に廃止となり、さらに2000年代以降、大学進学率の上昇が鈍化していくと、郊外キャンパスの大学・学部は人気が低下していきます。そこで2000年代以降、私立大学は都心回帰を進めるようになりました。受験生からすれば不便な郊外キャンパスよりも都心回帰したキャンパスの大学を選びます。そのほうが通学・就活などで便利だからです」

 都心回帰は志願者の増加に結び付くのか。

「必ず、というわけではありません。都心にキャンパスのある大学が他の要素で人気を落とすこともあります。ただ、全般的には郊外キャンパスのままよりも都心回帰するほうが志望者数は増加するという傾向が出ています」(石渡氏)