ところで、中国の中東外交で世界を驚かせたのは、イスラム教のライバル、スンニ派の盟主サウジアラビアとシーア派の代表イランの宿敵関係を接近させ、関係正常化の路線を開いたことだ。
サウジにはイランが中東の覇権を奪い、ペルシャ湾から紅海までその勢力圏に入れるのではないか、という不安が強かった。サウジのムハンマド皇太子は米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューの中でイランへの融和政策の危険性を警告し、イランの精神的指導者ハメネイ師を「中東の新しいヒトラー」と酷評した。そのサウジは当時、イスラエルに急接近していった。両国の“共通の敵”イランの存在があったからだ(「サウジとイスラエルが急接近」2017年11月26日参考)。
しかし、サウジとイスラエル両国の関係改善が遅々として進まない中、サウジは中国の仲介を受けて宿敵イランとの関係正常化に乗り出してきた。両国は2023年3月、両国関係の正常化で合意したが、その背後には中国の仲介が大きく関与している。サウジとイランの関係改善は中東地域における地政学上の大きな変化をもたらした。同時に、中国は中東地域での存在感を急速に高める契機となった。
サウジ・イラン両国合意は、一般的にはイスラム世界にとってグッドニュースだが、イスラエルは「深刻で危険な動き」と受け取られている。イランの核開発計画を阻止するためにサウジやエジプトなどスンニ派諸国と「反イラン包囲網」を構築してきたイスラエルにとっては大きな外交的後退となったからだ。
以上、中国は米国が世界の警察国家の役割から降りて以降、「一帯一路」構想で大経済・貿易網を構築する一方、中東外交、ウクライナ戦争の調停役など、外交では着実にその覇権主義を広げている。次期米大統領が誰になるとしても、米国は民主国家の代表として中国共産党独裁国家の調停外交にフリーハンドを与えてはならない。
参考までに、訪米中のネタニヤフ首相は24日、米議会で演説し、「ガザの戦争はイスラエルの戦争だけではなく、米国の戦争でもある」と主張し、米国の中東での役割を喚起させた。なお、議会演説ではハリス副大統領は選挙集会のため欠席したほか、約50人の民主党議員はイスラエルのガザへの軍事攻勢への批判から、ネタニヤフ首相の演説をボイコットした。米政界はイスラエル政策で分裂していることが改めて明らかになった。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。