損害保険ジャパンの社員が営業活動のために意図的に情報漏洩を行っていた事案の発覚が相次いでおり、同社では情報漏洩が慣習となっている疑いが浮上している。なぜ同社ではそのような行為が広まっているのか。また、同社に限らず損害保険業界では広く行われていることなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 大手損害保険会社の東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険は5月、顧客契約情報が競合他社に漏洩していたと発表。保険商品の販売委託先である代理店が、損保会社の顧客契約情報を他の損保会社に送信していた。これを受け金融庁は22日、損保4社に報告徴求命令を発出した。

「損保会社と代理店の関係というのは、あまり世間から関心を持たれることもないので広く知られていないが、損保会社にとって代理店は自社の保険商品を売ってくれる存在で、いわば“お客”のようなもの。損保会社は代理店に自社商品の売上を増やしてもらうために手厚くサポートし、両者は一体となって動くので、代理店側は損保会社が“外部”だという認識が薄いため、躊躇(ちゅうちょ)なく他社の顧客情報まで渡してしまうのだろう。また、損保会社は代理店への“営業活動”としてさまざまな便宜を図っている。たとえば、タダ働きでイベントを手伝ったり、代理店主催のゴルフコンペの幹事を引き受けたり、代理店が自動車ディーラーの場合は社員が車を購入することまである。なので代理店側としては『A社の情報を他社に送るくらい、別に問題ないだろう』と考えがちになる面もあるかもしれない」(大手損保会社社員)

出向先の顧客契約情報を漏洩

 損保ジャパンでは、代理店に出向・転籍した社員が出向先の顧客契約情報を損保ジャパンに漏洩させていた事案もたて続けに発覚。今月12日、トータル保険サービスへの出向者が同社の顧客の損害保険契約情報、計2700件を出向元に漏洩させていたと発表された。19日には、保険代理店の朋栄は、損保ジャパンからの出向転籍者が損保ジャパンからの要請に応じて朋栄の顧客契約情報1518件を出向元に漏洩させていたと発表した。朋栄の発表によれば、損保ジャパンからの出向転籍者が同社社員からの契約シェア確認の要請に対し、朋栄の顧客契約情報を提供していた。漏洩した情報は保険契約者名、法人個人区分、保険会社名(損害保険会社4社)、保険種目、保険始期、保険料、紹介先、担当者名、案件番号など。

 こうした行為は損保ジャパン特有のものなのか。もしくは、他の損保でも広く行われているのか。一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表の鬼塚眞子氏はいう。

「東京海上日動でも1件発覚しています。三井住友海上と『あいおい』は現時点では見つかっていないものの、継続調査中のもようです」

 大手損保会社社員はいう。

「損保ジャパン本社の金融法人部が、代理店に出向している社員に要請して情報を送らせていたということなので、組織ぐるみといわれても仕方ない。似たような行為が他の損保会社でまったくないとはいわないが、ガツガツした営業スタイルで知られる損保ジャパンでは以前から慣習として行われていたようだ。入手した顧客契約情報を販路拡大のために代理店への営業活動に使っていたとみられている」

 損保ジャパンが組織的に行っているのではないかという見方も出ているが、その可能性はあるのか。また、損保ジャパンは、なぜこのような行為を行っていたのか。

「調べた限りでは、本社が指示を出していたわけではないようです。真の目的は現時点では不明ですが、出向社員だけの判断ではないと思われます。損保会社と代理店は日頃から契約の拡大などについて話し合いながら戦略を立てています。明確に言葉には出さずとも、アウンの呼吸で情報漏洩行為をやってしまったのではないでしょうか。損保会社の社員も代理店の社員も数字は欲しいものですが、“してはいけないこと”には自らブレーキをかけています。結局のところは社員個人のコンプライアンスの意識の低さが問題を引き起こしているのだと感じます。

 代理店を舞台とする情報漏洩は、損保業界全体の問題だといえます。契約期間が長い保険商品を扱う生命保険会社は潜在リスクを重視しますが、契約期間が短い商品が多い損保会社は短期のスパンで物事を考えるので、総じてコンプライアンス意識が生保会社より低くなりがちな面はあるかもしれません。金融庁は今後、法律や監督指針を制定していくと思いますが、いくら金融庁や各社がいろいろと決めても、それが現場の末端にまで行き届くわけではありません。コンプライアンス意識を現場にまでいかに徹底させられるかが重要でしょう」(鬼塚氏)