キリンビールが缶チューハイ「氷結無糖」の動画CMなどに経済学者・成田悠輔氏を起用したことを受け、SNS上では「#キリン不買運動」というハッシュタグとともにキリンへの批判が広がっている。成田氏はかつて少子高齢化問題をめぐり「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という主旨の発言をしたとして米紙ニューヨーク・タイムズなどで大きく取り上げられ海外でも議論を呼んだことがある。なぜキリンは商品キャンペーンにおいて、あえて議論を呼ぶリスクのある人物の起用を行ったのか。

 RTD(栓を開けてそのまま飲めるチューハイ・ハイボール等の総称)市場でブームとなっている、糖類・甘味料を使用しない「無糖チューハイ」カテゴリー。同カテゴリをけん引する商品ともいえるキリンの「氷結無糖 レモン」は2020年10月に発売され、昨年9月には販売本数10億本を突破。これはキリンが過去20年で発売したRTDブランドのなかで最速の記録だという。現在、同シリーズとして「氷結無糖 レモン」「同 グレープフルーツ」「同 ウメ」「同 シークヮーサー」が展開されている。

 現在、俳優の高橋一生が出演するテレビCMが放映されているが、今月からは新キャンペーンとしてタレントの小峠英二、若槻千夏、成田悠輔氏が「氷結無糖」の魅力を本気で語るグラフィック広告、WEBムービーを展開。そのなかで成田氏は「時代を作るものは、いつだってシンプルですよね」などと語っているのだが、成田氏の起用を受けて前述のような動きが起きているのだ。

問題となった発言

 成田氏は2021年12月に放送されたインターネットテレビ番組『ABEMA Prime』(ABEMA)に出演した際、少子高齢化問題などをめぐり次のように発言。

<唯一の解決策ははっきりしていると思っていて。結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなことしかない。結構、大真面目で、やっぱり人間って引き際が重要だと思う。別に物理的な切腹だけでなくてもよくて、社会的な切腹でもよくて、過去の功績を使って居座り続ける人がいろいろなレイヤーで多過ぎるのが、この国の明らかな問題で、まったく呂律が回っていなかったり、まったく会話にならなかったりするような人たちが社会の重要なポジションをごくごく自然に占めていて、僕たち、それが当然だと思っちゃっているじゃないですか。

 当然だと思っていることがすごく危機的な状況だと思っていて、消えるべき人に「消えてほしい」と言い続けられるような状況を、もっとつくらないといけない>

 23年2月には米紙ニューヨーク・タイムズがこの発言を大きく報道し、世界中に知れ渡ることに。成田氏が助教授を務めるイェール大学は「成田氏の意見は彼自身のものであり、イエール大学の見解を表すものではない」との見解を示した。

 また、成田氏は番組内で笑いながらこの内容を発言し、共演者たちも笑顔を浮かべていたが、沖縄には太平洋戦争で多くの住民が集団自決を強いられた歴史が存在することもあり、<「集団自決」は、少しも笑える話ではない>(ジャーナリスト・安田浩一氏/23年8月15日付「AERAdot.」記事より)など、国内でもさまざまな批判が寄せられる事態に。成田氏は22年2月28日付「みんなの介護」インタビュー記事内で発言の真意について

<“切腹”や“自決”は議論のためのメタファーで、肉体的なものだけでなく、社会的・文化的なものも含めた色々な形があり得ます。具体像にはグラデーションがあり、大きくわけて3つのレイヤーがあり得ると思っています>

と説明していたが、YouTube番組『日経テレ東大学』と『ABEMA Prime』を降板するに至った。