30歳目前での葛藤と決断

――そこから保険会社を辞める決断をされたのは、どのような思いで?

まず、この1週間のフランス旅行に行く前までは、「3カ月ぐらい滞在できればいいや」と考えていました。でも、この滞在時に「3カ月では足りない!実際に住んで四季を体験してみたい!」という思いが強くなって、会社を辞めるという選択肢を考え始めていました。

さらに、30歳を前に「この会社でずっと働いていいのかな?」と悩んでいたことも大きかったです。

当時は、海外旅行保険のリニューアルのプロジェクトを担当していて、エンジニアとしてシステムの入れ替え状況を確認するために、夜通し空港で働くという体力的にもハードな業務がありました。体調を崩すこともあり、今のペースで本当にこの先も仕事ができるか不安でした。

とくに女性にとって30歳は、結婚や出産などを考える大きな節目。人生をいろいろと考える時期だったように思います。

そんななかで調べていたら、ワーキングホリデービザでフランスに行く道を見つけたのです。要項を読んでみると、ワーキングホリデービザに申請できるのは30歳まで。当時の私は30歳でギリギリ間に合う年齢でした。

これを逃したらズルズルと先延ばしにしてしまう気がして申し込むことを決めました。そして、31歳になってから思い切って会社を辞めて、念願のフランス留学が始まりました。


東京都内のオフィスで取材を受ける梶谷さん

「落ち着くタイミング」は絶対にやって来ない

――仕事を辞めるのは勇気がいりますよね?

仕事自体はとても好きでした。好きな業務を担当させてもらっていたし、給料も悪くなかった。さらに休暇や産休育休など福利厚生の制度も整っていました。上司も同僚も好きだったので、とても満足していました。

父にも「あんなに条件の良い会社で長く働けるのに本当に辞めるの?」と驚かれました。でも、その時に思ったのは「今行かなかったら、定年後に行くのかな」ということです。

60歳や65歳で行くのと、今行くのとどちらが良いかと自分のなかで天秤にかけました。その時に思ったのは、「自分がやりたいと思ったことは、やっぱり今やるから意味がある」ということでした。

もちろん、定年時点で留学したくなったのなら、その時がタイミングです。でも、私は30歳で留学したいという思いが芽生えました。やらない理由なんて、探せばいくらでも出てくる。

「仕事が落ち着いたら」や「もう少しお金が貯まったら」……などなど人はやらない理由を見つけてはやらないことを正当化して、先延ばしにしがち。仕事を手放すのは勇気のいることだと思いますが、それ以上の価値をフランスに行くということに自分は置いていたなと思います。 

【後編へ】

後半では、梶谷さんがフランスでどのような生活を送り、どのような経緯で起業に至ったのかを聞きます。