世界的に販売が落ち込み従業員の10%以上の削減に追い込まれるなど苦境にあえぐ米EV(電気自動車)メーカーのテスラ。売上減の原因として、市場全体でHV(ハイブリッド車)が好調で売上を食われている点を認めたことが注目されている。世界的にエンジン車からEVをはじめとするBEV(電動車)への移行が進むなか、ここにきてEV失速も鮮明になりつつあるが、日本の自動車メーカーが強いHVが息を吹き返すのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 世界のEV化を先導するかたちで成長を続けてきたテスラ。2023年は売上高が前年比19%増の967.7億ドル(約14兆円)、純利益が19%増の149.9億ドルでいずれも過去最高を記録するなど好調にみえるが、足元では不穏な兆候がみられる。今年1~3月期決算は、売上高が前年同期比9%減の213億100万ドル、営業利益は56%減の11億7100万ドル、最終利益は55%減の11億2900万ドルと低迷した。

「注目すべきは売上高営業利益率が10%台から5%台に大きく落ちている点だ。この原因は明らかで、中国勢の安値攻勢でテスラですら高価格を維持できなくなっている。また、販売台数も1年前より10%も落ちているが、中国勢が強い中国市場に限らず、欧州、米国などすべての地域で販売が落ちている」(自動車業界関係者)

中国、すでにテスラを逆転

 中国メーカーの価格優位性は明らかだ。テスラと中国メーカーがしのぎを削る中国市場では、テスラのEVは低価格モデルでも24万円元(約512万円)からなのに対し、中国の比亜迪(BYD)は約13万元(約278万円)から。他社からは9万元(約192万円)程度のEVも販売されている。

 こうした中国勢の圧倒的な低価格を支えるのが、電池メーカーでもあるBYDや寧徳時代新能源科技(CATL)など大手車載向け電池メーカーの存在だ。加えて、中国はEVのバッテリーの生産に欠かせないレアメタルの埋蔵・生産で世界的に優位な立場にあり、レアアースの生産量も世界シェアの約7割を占めるとされる。これらのサプライチェーンに中国は強い影響力を持つため、他国の大手EVメーカーは原材料調達に苦戦している。

 販売台数ベースでみると、23年10~12月期、テスラはBYDに逆転され世界首位の座を奪われた。

「BYDは東南アジアや南米でシェアを拡大すべく積極的に投資しており、こうした地域ではより価格が重要視されるだろうから、世界全体でみたシェアはますます中国勢が伸びてくる。さらにテスラにとって逆風なのが、世界的なEV失速だ。EV販売の大きな支えは国の補助金だが、各国でそれが縮小・終了となっている。また、充電ステーションや高額な価格、航続距離の短さといった制約があるため、EVの購入が想定される消費者というのは限定的であり、“購入すべき層はひとまず大半の人が購入した”ため踊り場を迎えたというのが正しい表現かもしれない」(同)

 欧州は2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げており、米国も22年に「インフレ抑制法(IRA)」を成立させ、一定条件を満たすクリーン自動車の新車購入者に対し1台あたり最大7500ドルの税額控除を付与するなどしてEV普及を後押し。一部州は将来的に全新車のZEV化を決めている。日本も35年までに全新車を電動車にする方針を掲げている。

 だが、徐々に変調の兆しがみえている。電動化にもっとも積極的だった欧州では、ドイツが昨年12月にEV購入への補助金を終了し、フランスはアジア生産のEVを補助金の対象外とした。イギリスはすでに22年に補助金を終了。月単位でみるとEV販売が前年比マイナスとなる国も出始めている。

 また、米国政府は3月、普通乗用車の新車販売のうち電気自動車(EV)の占める比率を32年までに67%にするとしていた目標を、35%に引き下げ。製造業の衰退が進む「ラストベルト」と呼ばれる米国中西部・東部のウィスコンシン州、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルベニア州は11月の米大統領選の激戦区となっており、候補者のバイデン現大統領とトランプ前大統領はともに、EV普及に反対色の強い多くの自動車メーカー従業員が加入する労働組合の支持を得るために、EVに厳しい姿勢を示している。そのため、どちらが勝利しても米国のEV推進は後退するとみられている。