パラリンピック選手の悲劇
しかし、こうした女優たちの苦情噴出に加え、非常に大きな犠牲を払った一人が2016年のパラリンピックに出場し、卓球の金メダルを取ったウィル・ベイリーさん。
彼は関節が永久的に固まる関節拘縮症を持ち、四肢の動きに制限がつくものの、これを克服して金メダルを得て、2017年には英国の勲章(MBE)までも授けられている人物だ。
2019年、ベイリーさんはプロの女性ダンサー、ジャネット・マンラーラとペアになって、「ストリクトリー」に参加。
この時、練習で事故にあった。準備されたテーブルから飛び下りるように言われたものの、ベイリーさんは安全に着地する自信がなく、ためらった。彼のコーチも危ないから飛び下りない方がよいと言ったという。
しかし、その場にいた制作チームの全員が大丈夫と言い、パートナーのマンラーラも飛ぶように言ったので、思い切ってトライ。1回目は大丈夫だったが、「まずい飛び方」とマンラーラに言われて、再度挑戦。この時、着地の瞬間にするどい痛みを感じたという。
その場では応急処置で済まされ、病院に行ったのは2日後になった。靭帯が裂けてしまうほどの深い傷を負ったベイリーさんは、昨年、膝の再建出術を受けている。
BBCからの支援薄くベイリーさんによると、BBCからの支援はかなり手薄だった。
傷を負ったために番組への参加を取り止めざるを得なくなったが、後にBBCに連絡を取ると、「大げさなことを言っている」ように扱われたという。
障害のある人がこの番組に参加する時にはもっと支援が必要だという手紙をBBCに送ったが、期待するような答えは得られなかった。
年次報告書の発表で記者会見に出た、BBCの経営陣トップ、ティム・デイビーは「ストリクトリー」での不祥事を謝罪すると同時に、ベイリーさんの発言に対しては「ドアはいつでも開いている。BBCに改善できることがあると思う人は来てほしい」と述べている。
BBCは先の女優2人の件を受けて、ダンスの練習時には必ずBBCの制作チームから担当者を同席させること、参加者が安心して番組に出演できるよう専門の担当者を置くことを約束している。
BBCは、もっと何かするべきなのではないか。少なくとも、経営陣らはベイリーさんに直接会って、謝罪するべきではないか。取り返しがつかないことをしたのだから。
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編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2024年7月24日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。