この処置に伴って、定員1700人とされる「恵」の入所者は、別の施設を探して移らねばならない羽目に陥った。99の施設で働く、おそらく1000人は下らないと思われる従業員も転職を余儀なくされることだろう。施設に出入りする業者にも不都合が生じるはずだ。

筆者はこう思った。不正を働いた経営者とそれに加担した幹部らは厳罰に処せられるべきだが、入所者にも、一般の職員にも、出入りの業者にも、まったく罪はないではないか。だのに、これら無辜の人々に負担を強いるような罪の償わせ方を執って良いのだろうかと。

「恵」は近年になって急成長したGHらしいので、近隣の同業GHには空きがあるのかも知れず、ならば入所者も従業員も出入り業者もさして困らないのかも知れぬ。だとしてもそれは偶々のことで、罪のない関係者にしわ寄せが及ぶような罪の与え方は好ましくなかろう。

ではどうするかと言えば、経営者と幹部には懲役と多額の罰金を科す一方、残った従業員で施設が運営を続けられるように、厚労省なり自治体なりが支援をすれば良い。このケースの場合、運営停止は最悪の処置だと思う。つまり、法律や政令が守るべき対象を間違えている。守るべきは弱者である。

次の出来事は台湾在勤中の話。高雄日本人会のある会員企業の客先(台湾企業)が汚染物質を流出させ、高雄市政府から無期の営業停止処分を受けた。会員企業の話では、当該顧客には大陸に子会社があるので、顧客への供給責任を果たすために大陸に仕事を移して高雄には戻らないだろうとのこと。

筆者は高雄市政府の知己に会い、不始末をした企業の仕事が大陸に移ってしまう事情を説明し、再発防止策が確認出来次第すぐに営業停止処分を解き、その分罰金を上乗せすべきである旨を助言した。すると利に敏い台湾人のこと、再発防止策の指導までして短期に停止を解いた。国益を守った訳である。

必要なのは、先ず再発防止策を立てることであり、罪を償わせるのはその次で良い。営業停止が長引けば、企業が仕事を失って倒産することもあり得る。顧客の先に顧客がいることも忘れてはならない。SDGsが叫ばれる中、安易な営業停止は最も持続可能性のない罪の償わせ方ではなかろうか。

さて、19歳10カ月の女子体操選手による練習会場での飲酒・喫煙は「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」に触れ、あってはならない。各自治体のサイトにも「タバコは体の成長や健康に悪影響があるだけでなく、非行を犯す少年に喫煙者が多いことから『非行の入口』と言われています」と書いてある。

が、報道によれば常習ではないらしい。五輪代表という重圧の日々、ふと魔が差して手を出してしまった若気の至りと思われる。どういう経緯でそれが露見したのか、筆者はそれを詮索したくない。おそらく選手仲間か誰かの通報だろうから、またその誰かが騒ぎの対象に加わることになりかねない。

筆者を含め二十歳前に飲酒・喫煙した経験がある者は多かろう。が、その大半は健康を害しもせず、非行にも走らなかった。親や教師にバレても大事にならなかったのは「普通の人」だからだ。ではなぜ「五輪代表」だと大事になるかと言えば、それは世間が騒ぐからで、騒がれれば組織は保身に走る。

ましてこの事件には被害者がいない。敢えて挙げれば当人で、彼女こそ守るべき対象だ。よって、罪一等を減じて彼女を五輪代表に復帰させ、パリ五輪に全力を尽くすことが何よりの償いであることを説き、帰国してから社会奉仕でもさせれば良い。こんなことで日本の宝を腐らせてはならない。