同時に、これまで法律の未整備で防衛産業などの国際ビジネスで、必要な情報にアクセスすることが出来ずに商機を失っていた民間企業へ後方支援する意味でも画期的な動きであった。

米中対立やロシアによる激しいサイバー攻撃などで国際社会が分断する中で、日本がその世界的潮流を先取りし、ルール形成を先導していく上で、著者が大臣として取り組んだ仕事は日本にとって死活的に重要であることは誰にも否定できない大きな功績である。

自民党総裁選が2か月後に迫る中、敢えて7月8日に新著を世に送り出すとなれば、周りは当然総裁選に向けての政権構想と期待を抱く。しかし、これまで紹介した通り、本書は大臣としての成果発表であり、総裁選に向けた決意表明でもなければ政治理念を発表するものでもない。

経済安全保障担当部署が設置され、急遽新部署へ送り込まれることになった企業の担当者が参考書として勉強する実務書といっても過言ではない。自己顕示欲を感じさせない純粋な政策本という意味で、コツコツ部屋に籠って書類の山と格闘する仕事人としての著者の生真面目さが良く表れた書籍であると思う。

思えば2021位8月の菅義偉政権末期に、総裁の座を目指し、最初に「日本経済強靭化計画」なる政権構想を「文藝春秋」9月号に発表したのが著者であった。今回も著者は先陣を切って、これまでの仕事の成果を世に問うた。

これから熱を帯びていく自民党総裁選において、我こそはと思う候補者は是非国民に対してこれまでの実績や自らの決意を国民に投げかけてほしい。