一方、プーチン大統領は今年11月の米大統領選の行方を注視し、次期米大統領との交渉でロシアの立場を優位にするためにウクライナにミサイル攻撃を繰り返している。
キーウからの情報によると、ウクライナ北東部と南部で20日、ロシアによる攻撃があり、少なくとも3人が死亡した。ハリコフ地方検察庁によると、イズム地区でのロケット弾攻撃で男性2人が死亡。約50棟の建物が被害を受けた。警察によると、ウクライナ南部の都市ニコポルでもロシア軍の砲撃により男性1人が死亡した。さらに、ウクライナ南部ムィコラーイウ市の子供の遊び場へのロケット弾攻撃による死者数は4人に増加した。
ロシア軍のミサイル攻撃で人的被害と共に、最大の懸念は、エネルギーインフラ関連施設が破壊されていることだ。ロシア軍の発電所への攻撃で電力不足が深刻化。首都キーウの地下街は真っ暗だという。経済活動が落ち込み、電力需要が増える秋以降をどうしのぐのかが大きな課題となっている。ロシア軍は3月以降、ウクライナ全土の発電インフラを集中攻撃。キーウや北東部ハリコフなどでは全ての火力発電所が損傷した。ゼレンスキー大統領は、国内発電能力の半分が失われたと明らかにしている(キーウ発時事)。
ところで、欧米メディアでは報道されていないが、ウクライナ大統領府オレクシー・クレバ次長は20日、松田邦紀駐ウクライナ日本大使と会談し、エネルギーインフラの復旧問題で話し合った。
クレバ次長は日本からの継続的な支援に感謝し、「私たちのパートナー国は、ロシアの砲撃によって破壊されたエネルギーインフラの修復に取り組んでいる。日本はハリコフ地域のエネルギーインフラの復旧に集中している。この地域は毎日砲撃を受けている。敵は地域の重要インフラを組織的に攻撃している。私たちは力を合わせて冬の季節に備える必要がある」と語った。
それに対し、松田邦紀大使は、最近のオフマディト小児病院への攻撃を含め、民間インフラに対するロシアの攻撃を非難し、ウクライナへの連帯と支持を表明、「ウクライナの復興と再建のために、ウクライナの地域、都市、コミュニティと日本のパートナーとの間の協力が重要だ」と述べ、ウクライナ復興会議(ベルリン)、ウクライナ和平サミット会議(スイス)、イタリアで開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)とワシントンでの北大西洋条約機構首脳会議(NATO)におけるウクライナ側の努力とその成果を評価している。
ウクライナ国民の前には厳しい冬が控えている。冬には気温が摂氏マイナス20度に下がる。国民にとって健康上のリスクは大きい。プーチン大統領は冬が来る前にウクライナのエネルギーインフラを完全に破壊することを狙っているはずだ。ウクライナへの武器供与(対空防衛ミサイルシステム)も重要だが、エネルギーインフラの復旧支援は国民の命を守る重要な人道支援だ。日本政府は発電機の供与など可能な限りの支援を早急に実施すべきだ(「摂氏-20度のウクライナに発電機を」2022年11月23日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。