人気ゲームシリーズ『アサシン クリード』の最新作で11月に発売予定の「アサシン クリード シャドウズ」が、ネット上で論議を呼んでいる。織田信長に仕えた黒人として著名な弥助をモデルにしたキャラクターが、新主人公として追加されたことが原因である。

これまでのシリーズでは、様々な時代や国で暗躍する架空の暗殺者が主人公だったが、歴史上に実在した人物である弥助が主人公として登場し、「伝説の侍」として紹介された。このことに対して、著しい誇張であり、歴史の歪曲につながるのではないかとの批判が沸騰している。

ゲーム『アサシン クリード シャドウズ』で主人公として登場する弥助UBISOFTホームページより

論争は加熱、拡散し、現在では「アサクリ」弥助の人物像に影響を与えたと見られるトーマス・ロックリー氏(日本大学准教授)の弥助研究に批判が飛び火し、当時の黒人奴隷貿易のあり方にまで議論が広がっている。

情報が錯綜しており、また紙幅の都合もあるので、本稿ではひとまず論点を「弥助は侍だったか」に絞って私見を述べたい。

弥助に関する最も信頼できる史料は、同時代史料・一次史料である『家忠日記』である。徳川家の家臣、松平家忠が天正5年(1577年)から文禄3年(1594年)にかけて綴った日記である。

それによれば、天正10年4月19日(1582年5月11日)、松平家忠は、武田征伐を終えて東海道を遊覧しつつ安土に帰還する途中の信長に付き添っている弥助を目撃している。すなわち、以下の記述である。

上様(信長)御ふち(扶持)候大うす(デウス)進上申候くろ(黒)男御つ(連)れ候、身ハすみ(墨)ノコトク、タケ(丈)ハ六尺二分、名ハ弥介ト云。

信長が「弥介」という名の黒人を召し使っていた。弥介は宣教師から信長に献上されたものだという。ただし、この記述だけでは弥介が侍か否か判然としない。

この黒人「弥介」と関連すると思われる記述が、イエズス会宣教師のルイス・フロイスが1581年4月14日(天正9年3月11日)に日本在留の宣教師に宛てた書簡の中に見える(イエズス会日本年報に収録)。

書簡の中でフロイスは数週間前、召し使っている黒人が旅の途中で日本人の注目を集めたことに言及している。堺の町を出ようとした時、黒人を見るために人だかりができたというのである。なおイエズス会は公式には奴隷を使うことを禁じていたため、この黒人は年季奉公(期間契約)のような形で宣教師の従者(一行の代表であるアレッサンドゥロ・ヴァリニャーノの従者か)となっていたのではないかと思われる。

さらにフロイスは、同じ書簡で、世間での評判(フロイスは「見世物にしたら大儲けできただろう」と差別的に記している)を聞いた信長が黒人を招いて実見した際の様子について記述している。本当に肌が黒いか確かめるために、上半身を裸にしたという。

そしてルイス・フロイスの同僚であるイエズス会宣教師ロレンソ・メシヤは、1581年10月8日(天正9年9月11日)付の府内(現在の大分県)からの書簡において、3月にフロイスらと共に信長と会った時の出来事を書き記している。