「父親はあの事件以来、何か変わってきた」

トランプ前米大統領の息子がこのように語ったというのだ。「何がどのように変わってきたのか」については詳細なコメントがなかったが、死ぬ寸前のところを奇跡的に救われて自分はまだ生きている、といった思いがトランプ氏の心の中に湧いてくるのだろう。人は変わる。それが生命の危機に関連した出来事の場合、その「前」と「後」で人はその生き方を変えることがある。

米ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれた共和党大会に出席したトランプ前大統領(手前左)とJ・D・バンス上院議員(同右)(2024年7月15日、桑原孝仁撮影)

ところで、「トランプ氏が暗殺未遂に遭遇し、銃弾が耳周辺を通過するという事件が生じる」と事前に語っていた人物がいたということがソーシャルメディアで報じられ、話題となっている。ブランドン・ビッグス牧師だ。同牧師はキリスト教の聖職者で、ソーシャルメディアコンテンツクリエイターという。同牧師は今年3月15日に公開した動画で、他の牧師と対談の中で「私にはトランプ氏の命を狙う銃弾が見えた」「銃弾は彼の耳のすぐ横を通り抜け、頭に非常に近かったので鼓膜が破れた」という自身のビジョンを語ったのだ。未遂事件発生4カ月前のことだ。動画が存在するので、その話の信憑性を疑うことはできない。同牧師は当時、「バイデン大統領が選挙で敗北する」とはっきりと述べている。

大統領の暗殺事件や飛行機墜落事故など世界に大きな衝撃を投じる出来事の場合、その事後、さまざまな憶測や今回のように一種の予言話が飛び出すことがある。それ自体、新しいことではない。「神がトランプ氏を守った」といった類の証も報じられているからだ。

神が直接介入して特定の人物を守ったという話には多くの人は心が惹かれるものだ。ただし、ウクライナで数十万人が犠牲となり、ガザ紛争でも多くのイスラエル人、パレスチナ人が命を失っている。なぜ神は彼らに関与して戦争の解決に導かないのか。トランプ氏に関与した神はウクライナ人、パレスチナ人の命には関心がないのか、といった「神の関与」の整合性が問われてくる。

明確な点は、欧州の選挙戦とは異なり、米国では宗教が依然大きな影響を持っていることだ。それだけに、バイデン氏もトランプ氏も米福音派教会や米カトリック教会の信者たちに対し熱心に自身の公約を売り込む選挙戦を展開するわけだ(「米大統領選の行方を握る“宗教票”」2024年4月17日参考)。

多くの欧州人は米国のトランプ人気が理解できない。米国のキリスト教福音派関係はビル・クリントン氏(大統領在位1993~2001年)の性スキャンダルの時、「大統領にある者は道徳的、倫理的にもクリーンでなければならない」と激しく糾弾したが、トランプ氏に対しては極めて寛大だ。トランプ氏が中絶に厳格に反対を主張し、イスラエルの米大使館をエルサレムに移転させたことを評価し、「トランプ氏は神が遣わした大統領」と称賛している。