利用者が増えている退職代行サービスを会社側が排除する方法があるのではないか、という見方が一部SNS上で話題を呼んでいる。憲法で定められた職業選択の自由に基づき労働者には所属する会社を退職する権利が保障されているとされるが、従業員が退職代行サービスを利用することを会社が排除することは可能なものなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 労働者本人がなんらかの理由で所属会社に直接、退職の意思を告知することを避けたい場合に、それを代行してくれる退職代行サービスの利用が増えている。一般的な利用の流れはこうだ。退職の意思を持つ利用者は退職代行業者と打ち合わせを行い、業者が利用者の所属会社に退職の意思を連絡。退職届の提出や会社からの貸与品の返却、オフィスに残っている私物の返却など必要な手続きは郵送で行い、退職が確定する。利用者本人が会社と直接やりとりすることなく退職に至る。

 例えば、多くの実績を持つある退職代行サービスは、弁護士の監修を受けたサービスを提供している。労働組合法適合の資格証明を受けた「労働環境改善組合」と提携しており、労働組合の組合員が団体交渉権を持って企業と交渉を行うため、企業側は原則これを拒否することはできないという。弁護士が監修した退職届や要望書などのテンプレートの無料提供や、失業保険・社会保険給付金の受給に関するサポートも行っている。

 一般的な料金は2~5万円台ほど。退職できなかった場合は全額返金されるケースもある。ちなみに、このような退職交渉を弁護士に委託することも可能だが、専門業者に比べると金額は割高になる傾向がある。

広がる退職妨害

 そもそも、なぜこうしたサービスへの需要が高いのか。転職支援会社の社員はいう。

「大企業では部下が退職すると、その上司の査定に響いて昇進などの面でマイナスの影響をおよぼすケースが珍しくない。もちろん、会社としては純粋に人員が減ると補充する必要が生じるので面倒だという理由もあるが、たとえば平社員が退職の意思を示すと、その上の主任や課長、部長が入れ替わり立ち替わり説得に当たり、あの手この手で引き留めようとして、ときには転職先への妨害をちらつかせて脅すようなことまでする。その結果、退職の申し入れから退職するまで半年以上もかかったりして、転職先の企業としては入社時期が決まらない状態が続くため、最悪の場合は採用が取消となって退職希望者が不利益を被る可能性も出てくる。長期間にわたり退職妨害を受けることによる精神的ストレスも大きい。

 中小企業の場合は従業員数が少ないので、1人の社員が辞めることによるダメージは大企業以上に大きい。それまでに投下した金銭的、労力的な教育コストは無駄になってしまうのに加え、代替社員を新規で採用して教育するためのコストもバカにならない。なので“辞めさせたい社員”でなければ引き留めようとする。このほか、単に社員が辞めることを良しとせずに執拗に嫌がらせ的な退職妨害をするブラック企業も存在する。

 2~3年も勤務していれば、自分の会社がこうした過度な引き留めを行う会社なのか、逆にあっさりと退職を受け入れてくれる会社なのかはわかるもの。なので『面倒だからお金を払ってでも退職代行サービスを使ってストレスなく辞めよう』と考えるのは自然だろう」