高校をクラス2位の成績で卒業!弁護士の資格も取得
ポールさんは生涯にわたり、頭と首と口しか動かせない状態でしたが、「生きよう」という意志が折れることはありませんでした。
彼は学校には通学しないホームスクールの形で教育を受け、熱心に勉学に励みます。
またメモを取るのが無理なので、代わりに全ての内容を暗記することを学びました。
1967年にダラスのW.W.サミュエル高校をクラス2位の好成績で卒業すると、1978年にはテキサス大学オースティン校で学士号を、次いで1984年には博士号を取得します。
そして1986年には司法試験に合格し、弁護士の資格を取得。
事務所を開設して、30年の間、弁護士として仕事を続けました。
裁判所に出廷する際は「鉄の肺」をまっすぐに固定できるように改造された特殊な車椅子を使っていたといいます。
さらに2020年には、5年の歳月を自分の半生をまとめた著書『Three Minutes for a Dog: My Life in an Iron Lung』を書き上げ、出版もしました。
ところがポールさんは今年2月に新型コロナウイルス感染のために入院。
その後も容体が回復することなく、3月11日に78歳で亡くなりました。
ただ実際の死因がコロナによるものだったかは不明だといいます。
弟のフィリップさんは声明で「(兄の死に際し)寄せられたコメントを読んで、これほど多くの人がポールに勇気づけられていたことを知って驚きました。本当に感謝しています」と述べました。
また、ポールさんの生前にインタビューを行ったアメリカ障害者権利活動家のクリストファー・ウルマー(Christopher Ulmer)氏は「彼の生涯の物語は広く遠くまで伝わり、世界中の人々に良い影響を与えた」と評し、「ポールはこれからも人々の記憶に残る素晴らしいロールモデルである」と続けています。
世界で最初の有効なポリオワクチンは、ポールさんが感染した3年後の1955年に認可されました。
その後、ポリオウイルスの感染者は徐々に減少し、現在ではほぼ根絶した状態にあります。
1988年の時点では、ポリオの感染者数が125カ国以上で約35万件ありましたが、2021年には2カ国でわずか6例しか確認されていません。
今後、ポールさんのように「鉄の肺」が新たに使われることはないでしょうが、彼の勇敢な人生は世界で長く語り継がれていくでしょう。
こちらはウルマー氏によって行われた生前のインタビュー映像です。
参考文献
Paul Alexander, polio survivor who lived in iron lung for 70 years, dies age 78
Paul Alexander: Man who lived in an iron lung for 7 decades dies at 78
Paul Alexander, “The Man In The Iron Lung”, Has Died
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。