人間用の抗うつ薬はザリガニにも効くようです。
2021年6月15日にフロリダ大学の研究者たちにより『Ecosphere』に掲載された論文によれは、人間の抗うつ薬(SSRI)が川に流れ込んで、ザリガニの性格を変えていたとのこと。
抗うつ薬(SSRI)は人間の脳内のセロトニンを増やす作用があり、気分を楽にしたり、不安を解消するといった働きがあります。
しかし、いったいどうして人間用の薬がザリガニに影響したのでしょうか?
目次
- 人から排出される抗うつ薬が「ザリガニを恐れ知らずにさせる」と明らかに
- ザリガニ以外の水生生物の性格も変わってしまっているかもしれない
人から排出される抗うつ薬が「ザリガニを恐れ知らずにさせる」と明らかに
現在、アメリカでは3000万人もの人々が抗うつ薬を服用しています。
これは総人口3億2000万人の約10%にあたる割合となっています。
そんな中でもSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)の需要は特に多いことが知られています。
ですがこれまでの研究では、人間が服用したSSRIの「その後」については、十分になされていませんでした。
人体に吸収されたSSRIの大半は肝臓などで分解され効力を失う一方で、分解しきれなかった残りは糞尿に混じって薬効を維持したまま排出されます。
個々の人々が排出するSSRIは微量ですが、服用者の母数が巨大なため、排出されるSSRIの量もまた膨大になります。
現代のアメリカにおいて糞尿の多くは下水を通って廃水処理場で浄化されますが、残念ながら医薬化合物の全てを分解できるわけではありません。
そこで今回、フロリダ大学の研究者たちは一般的な河川にも含まれているSSRI(シタロプラム:商品名セレクサ)がザリガニに対してどのような影響を与えるか調べることにしました。
研究者たちは特殊な水槽を用意し、SSRIを環境を反映し得る適度な量(0.5マイクログラム / リットル)になるように加えました。
結果、SSRIを吸収したザリガニは通常に比べて行動が著しく大胆化していることがわかりました。
普通のザリガニはエサの匂いを漂わせても、直ぐには住処から出ずに慎重な行動をとりますが、SSRIを吸収したザリガニはいち早く住処から出ただけでなく、エサを探す時間も多くなっていました。
またエサに対して貪欲化は、自然なザリガニの優先順位を狂わせ、仲間の匂いに対する相対的な興味を失わせることにもつながりました。
この結果は、ザリガニの行動がSSRIによって変化してしまったことを示唆します。
SSRIは人間に対して、気分を楽にしたり不安を解消させるといった効果がありますが、ザリガニに対しても、似たような効果があるのかもしれません。