実に不可解な失踪事件が2000年12月にアメリカで起こっている。裕福な家庭に育った男子大学生がまったく何の前触れもなく行方をくらましたのだ――。
■突然行方をくらました男子大学生
2000年12月1日の朝7時半、テネシー州メンフィスに住む大学生のマシュー・ペンダーグラストは、いつものように自宅から愛車のトヨタ4ランナー(SUV)でローズカレッジのキャンパスへ向かった。この日の1限目はスペイン語の授業であった。
ペンダーグラストにとって普段と変わらぬいつも通りの行動だったはずだが、スペイン語のクラスに姿を現すことがなかったばかりか、これ以降、ペンダーグラストの姿を見る者は誰もいなかった。
ペンダーグラストの実家はジョージア州アトランタにあり、形成外科医の父のもとで彼は何不自由ない生活を送ってきた。家庭内に何か問題があったということもない。
この日の朝、ペンダーグラストの地元の友人が彼と電話で話したことがわかっている。友人によればペンダーグラストの様子におかしいところはまったくなく、元気そうであったという。それだけに彼の突然の失踪にこの友人はショックを受けていた。
まったく不可解なペンダーグラストの失踪から数日がたち、アーカンソー州ロノーク郡の私道の未舗装道路から少し離れた沼地でペンダーグラストの車が発見された。地元のハンターが偶然に見つけたのだった。
ペンダーグラストの両親をはじめ友人知人たちに聞いてみても、彼とアーカンソー州を結びつけるものは何もなさそうで、おそらくペンダーグラストはそれまでアーカンソー州に行ったことすらないのではないかということだ。どんな事情があってペンダーグラストはアーカンソー州まで車を走らせたのか。
彼の愛車である1998年製のトヨタのSUVは乗り捨てられていて、ドアにはロックがかかっておらす、キーは差しっぱなしであった。ちょっとした用事でドライバーが車を離れたような様相であったのだ。すぐに周辺一帯で捜索が行われたがペンダーグラストの行方を暗示する手がかりは何も得られなかった。
沼地の湿地帯ゆえに捜索は難航したが、2日目には車両からわずか90メートルの場所で奇妙な発見があった。ペンダーグラストが着用していたブルージーンズ、Tシャツ、靴、靴下がすべてきれいに折りたたまれて積まれていたのだ。それほど丁寧に扱われているにもかかわらず、これ見よがしに地面に置かれているのも何か不自然であった。
ジーンズのポケットにはペンダーグラストの財布があり、身分証明書、クレジットカード、いくばくかの現金が入ったままだった。服を脱いだ後に別の服に着替えた可能性もあるが、それでも財布を忘れることはないだろう。
乗り捨てられた車の中を念入りに調べてみると、ペンダーグラストの日誌が見つかった。行動記録を記した“日記”ではなく書かれている表現は難解で、奇妙な詩や生と死に関する考察、不可解な散文などが綴られていた。
「不死を求める」という章では、「シルバーエルフ」と呼ばれる存在と、「水の中に入り、再び自然と一体になる」という記述があった。もちろんそれらが何を意味しているのかはまったくわからない。
車と衣類が発見された付近一帯で1週間に及ぶ捜査が行われたが、ほかには何も発見できず、ペンダーグラストの行動を示唆する痕跡も何も得られなかった。そしてこの謎の失踪事件は迷宮入りとなる。