財政赤字とは社会保障の赤字

さらに重要なのは、社会保障特別会計と連結で考えることだ。2023年度の社会保障特別会計は134兆円と(一般会計と特別会計を合計した)政府予算の半分を占め、しかも53兆円の赤字を一般会計で埋めている。その穴埋めの社会保障関係費は一般歳出の半分を超え、他の歳出は(防衛費を除いて)ほとんど増えていない。

つまり今や財政赤字とは社会保障の赤字なのだ。これは公共事業などの裁量的経費とは性格の違う受給権(エンタイトルメント)として財産権になっているので削減は容易でなく、その所管は財務省ではなく厚労省である。財務省は特別会計の総額は査定できるが、内訳には外野からコメントするだけだ。

厚労省が「統帥権の独立」で暴走する

これは戦前の軍部と同じである。当時も陸海軍の予算は陸軍省と海軍省が決め、大蔵省はそれを追認するだけだった。高橋是清蔵相がそれを削減しようとすると、陸軍は「統帥権の干犯だ」と騒ぎ、二・二六事件で高橋は暗殺された。

政府の少子化対策「支援金」も、健康保険料を少子化対策に使うのは筋違いだと批判が強かったのに、こども家庭庁は予定通り2026年度から6000億円徴収する方針だ。医療保険は特別会計だから、国会の議決は必要ない。まさに統帥権の独立である。

このような厚労省の暴走を止めないと、団塊の世代が後期高齢者になる来年から医療費は激増して健康保険料が上がり、現役世代の国民負担率は50%を超える。それを受給する高齢者が金融資産の60%以上をもっているので、これは富の逆分配になっている。

問題はPBのようなフローの赤字ではなく、このようなストックのゆがみが拡大して限界に近づいていることだ。それを是正するには単なる増税ではなく、社会保障を抜本改革して税と社会保険料を統合し、財政を財務省に一本化する必要がある。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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