「パンダそっくりの可愛い虫がいる」と聞くと、多くの人は「本当かよ?」と疑うかもしれません。
しかし南米チリに行くと実際に、パンダと同じ白黒模様で、ふわふわした毛並みを持つ虫に会うことができます。
その名も「パンダアリ(panda ant)」です。
「なに、アリがパンダに擬態しているのか」と思ったでしょうか。
もちろん、アリがわざわざパンダになりきるメリットはありませんし、実をいうとパンダアリはアリですらない(!)のです。
では、この可愛らしい生き物の正体は何なのでしょう?
そしてなぜパンダみたいな姿をしているのでしょうか?
目次
- パンダアリの正体は「ハチ」⁈
- 他種の幼虫に「子供」を産みつける
パンダアリの正体は「ハチ」⁈
パンダアリは1938年に、南米チリの沿岸地域にある森林の中で初めて発見されました。
その不思議な見た目に、第一発見者はさぞ驚いたことでしょう。
全長約8ミリの小さな体に翅(はね)はなく、アリのような姿形で、全身にふわふわした毛並みが生えそろっていたのです。
その白と黒のコントラストはまさしく「パンダアリ」とあだ名されるには打ってつけでした。
見た目からパンダアリと呼ばれているものの、本当はアリですらありません。
パンダアリ(学名:Euspinolia militaris)は生物学的にいうと、ハチ目アリバチ科に属する寄生バチの一種なのです。
さらに見た目がパンダに似ているのは「メス」だけです。
パンダアリのオスには白黒の毛模様はなく、サイズもずっと大きくて、翅もちゃんと生えています。
一方のメスは翅がなくて空を飛ぶことはできませんが、代わりに体長の半分もある鋭い毒針を持っています。
この針は産卵器官が変化したものであり、寄生バチによく見られる特徴です。
そして白黒の毛模様は決してパンダにインスピレーションを受けたのではなく、天敵に強力な毒針を持っていることを知らせるための警告色だと研究者らは説明します。
この毒針は人間には致命的となりませんが、刺されたらかなりの激痛が走るといいます。
このように同じ種内でもオスとメスで色や形、サイズが大きく違う生き物を「性的二形」と呼びます。
実際にパンダアリのオスとメスは交尾シーンを見ない限り、ひと目で同じ種と判別するのは難しいそう。
またパンダアリの交尾はオスがメスを抱き抱えて、空中で行われます。
これには交尾中に天敵に襲われるのを避けたり、他のオスに邪魔されたり、メスが逃げ出すのを防止する目的があるようです。
パンダアリはこれだけ愛らしい見た目をしていますが、寄生バチに特有の恐ろしさも兼ね備えています。