他の大陸国では想像ができない広大な沿岸部を持ち、海洋をめぐる国際政治に大きく関与する中国が、純粋な「大陸国家」であるはずがない。中国は、大陸国家と海洋国家の中間に位置し、両者の特性を併せ持つ「両生類」である。

地政学は、地理から見た政治動向の分析である。21世紀になってロシアと中国の国力が逆転したからといって、地理的条件が変わるわけではなく、勝手に異なる概念を適用すべきではない。

後に、マッキンダー理論を引き継いだアメリカのニコラス・スパイクマンは、「内側の三日月」地帯を「リムランド」と概念化し直した。そして「リムランド」に帰趨が、世界政治の動向を決する、という考えを示し、冷戦時代のアメリカの「大戦略」を用意した。

「リムランド」の中でも、大陸から海洋に向かって突き出た半島部分が、「橋頭堡」と呼ばれる最重要地域である。朝鮮戦争やベトナム戦争など、アメリカが大々的に軍事的に関与した事例は、「リムランド」で発生した。

中国は、「両性類」だが、「橋頭堡」を持たない。これに対してインド亜大陸は、ユーラシア大陸有数の「半島」であり、最重要「橋頭堡」の一つである。その半島全域を14億人の人口で固めているインドは、地政学理論から見て、際立った重要性を持っている。

ただし間違えてはならない。インドは「大陸国家」でも「海洋国家」でもない。大陸国家と海洋国家の中間に位置し、両者の特性を併せ持つ「両生類」である。その点では、中国と同じ「リムランド」に位置する類似点を持っている。しかし「橋頭堡」の大国である点で、中国とは異なる。

欧米中心主義的に「中国は親露派か」「インドは西側寄りをやめたのか」といった類の問いだけにとらわれていると、情勢を見誤る。