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昨年公刊した『戦争の地政学』を執筆する前に、世間で売られている「地政学」が題名に入った本をありったけ渉猟した。一般書店に並んでいる「地政学」の本は、全く雑多であるだけでなく、万が一にも、地政学の理論家たちの議論を意識したものではない。ただ、自分も「地政学」が題名に入った本を出すにあたり、一応は、世間の動向をさっと見ておこうかとは思った。

その際に感じたことの一つが、「両生類」概念の欠落であった。

大量の書店に並ぶ地政学本においても、「海洋国家」「大陸国家」という概念については、よく用いられている。緩やかではあるが、マッキンダー理論を踏襲する形で用いられている。これに対して「両生類」は、概念そのものが使用されていない。そうなると、議論の枠組みが、最初から全く異なるものになってしまう。

世間一般に流通している本では、中国は「大陸国家」だとされている。「海洋国家」「大陸国家」の概念を導入した「英米系地政学」の始祖ハルフォード・マッキンダーの議論からすれば、これは間違いである。

非常に良くないのは、マッキンダーの名前だけ参照しながら、マッキンダーに反して、「中国は大陸国家だ」と断定してしまう人が、あまりに多いことだ。

マッキンダーの見取り図に従えば、中国は、ユーラシア大陸の外周部に位置し、「内側の三日月」に属する地域に存在する国だ。大陸国家の代表は、「歴史の回転軸」である「ハートランド」に位置するロシアである。