■過去最大規模の捜索が行われる
ジルはわずか10分ほどで洗濯から戻ってきた。カートがいないことはわかったが、夫の車に乗って一緒に出かけたのだろうと、この時は何の疑問も抱かなかった。
しかし当然ながら夫のロンは薪を積んだ車を一人で運転して帰ってきたので、ジルは驚くしかなかった。家族はここでカートが行方不明になっていることを理解する。
カートはシャイな子で、いつも母親のそばから離れず、普段は自宅周辺から出ることもなかったので、この単独行動は両親には考えられないことであった。母親のジルの視界には常にカートがいたのである。
夫妻は慌てて周囲の人々にカートを見なかったかどうかを尋ね歩いたのだが、その過程でキャンプ場の管理人であるジャック・ハンソンと接触することになる。ジャック・ハンソンは前出の最後の目撃者であるルー・エレン・ハンソンの父親である。
ハンソンは少し離れたキャンプ場のゴミ集積所の付近に、また新品の三輪車が放置されていることを夫妻に告げ、その場所に夫妻を案内した。
まぎれもなくカートの三輪車であった。何か用事があってここに停めただけで、すぐにでも持ち主が戻ってくるかのような佇まいであった。しかしカートはいつまでたってもここには戻ってこない。そしてほどなくして、メイン州で過去最大規模の捜索活動が行われたのである。
数百人のボランティアが動員され、ヘリコプターで空からの捜索も行われた。高性能の熱検知器と大音量の拡声器が用意され、優秀な追跡犬も参加するといった大掛かりな徹底的な捜索が行われたのだが、カートの行動を示す手掛かりすら得られなかった。
地元メディアはすぐにこの事件を報じ、付近の住民には目撃証言を求めるチラシも配布された。
時間がたつほどに天候が悪化し、捜索は徐々に困難になっていった。追跡犬のブラッドハウンドもお手上げで、付近を堂々巡りするしかなかった。カートがまさに“蒸発”してしまったかのような失踪事件で、主任調査官の1人であるデュアン・ルイスも頭を抱えていた。
「人類の歴史の中で時々、私たちには理解できない信じられないことが起こります。私たちは彼を見つけるはずでしたが、それができませんでした」(デュアン・ルイス)