国連事務総長はどう言っている?

2月22日、ロシアによる対ウクライナの侵攻が始まる前、アントニオ・グテーレス国連事務総長がロシアとウクライナの緊張関係に言及している。

事務総長は、ロシアの侵攻は「一方的な措置で国連憲章に反している」と強い口調で述べた(日本語のテレビ映像、2月23日)。

この時の演説では、演説後に報道記者との質疑応答があった。

この中で、記者が「ウクライナの政府関係者が国連平和維持軍の派遣の可能性があると言っていたが、これについてどう思うか」と聞いた。

事務総長は、ウクライナが東部の分離独立派が実効支配する(東部ドンバス地域の)ドネツク州やルガンスク州*に国連維持軍を派遣してほしいと言ったときもある、と述べた。「当時は(注:事務総長はいつだったかを明確にしなかった)ロシアが平和維持ミッションの考えに合意したが、欧州安全保障協力機構(OCSE)監視団**の保護という限定的なものだった」。最終的に、安保理の中で平和維持軍派遣について合意がまとまらなかったという。

*ロシアのプーチン大統領は、2月21日、ウクライナ東部でロシアへの編入を求める分離独立派が実効支配する「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」を国家として承認する大統領令に署名している。(参考:JETROビジネス通信)

**OCSEの「ウクライナ特別監視団」は、ウクライナ軍とロシアが支援する反政府勢力との間で紛争が勃発した2014年から、ウクライナ東部の情勢を監視していた。

・・・とすると、常任理事国の一つで、今回の紛争の当事者であるロシアの存在が派遣ミッション成立のネックになっている可能性がある。

しかし、もし派遣が実施されても、どれほどのことを達成できるのか。

ウェブサイト「オープンデモクラシー」の記事(2月2日付)はロシアによる侵攻開始前に書かれたもので、「中立的な存在」として、国連平和維持軍のウクライナへの派遣を提唱した。

派遣が実現できない理由として、常任理事国ロシアが賛成しないだろうという見方を挙げているが、もし前線に派遣された場合、紛争を「凍結」することはできても、解決につながるとは限らないと指摘している。

また、常に紛争を再開させる方向へのプレッシャーも働く。

紛争凍結は戦争が続くよりはよいかもしれないが、平和維持軍が出ていくのであれば、「凍結するのではなく、解決を助ける」道を探す方がよい、という。

大きな戦争の記憶

ウクライナがロシアに爆弾を落とされる様子を連日、英国のメディアが報道している。「何とか、爆弾を止めたい」。テレビ画面を見つめる誰もが思う。

ロシアの侵攻を非難し、次々と制裁を強化し、スポーツ競技からロシア人選手を締め出しても、武力攻撃が止まらない今、「武力には武力で」、とにもかくにも止めるしかないのだろうか。

メディア報道ではなかなか表に出てこないが、第2次世界大戦の記憶がまだ強く残る英国には、こんな声もある。筆者の近所にいる高齢者の男性がポツリと漏らした。「第3次世界大戦が起きたら、大変だ・・・」。男性の父親は第2次大戦で戦死した。

戦争は怖い。ウクライナからポーランドやほかの東欧の国に逃げてくる人々の姿は悲しみを誘う。何とか助けてあげたい。だから、物資を寄付したり、募金したりする。でも、いざ英軍を派遣したら、それにロシアが対抗して大きな戦争になっていったら、一体どうなるのか。先の戦争のように、多くの人が亡くなるのではないかと心配しているという。

ウクライナを助けたい。でも、英軍を派遣したらどうなるのか、と怖さに立ちすくむ市民がいるのも、現実なのだ。


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2022年3月9日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。

文・小林 恭子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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