統合失調症は「ゲーム」で治療できるかもしれません。
統合失調症とは、感情や思考がまとまらなくなる病気で、約100人に1人の割合で見られるメジャーな精神疾患です。
そんな中、独ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センター(UKE)は最近、ゲームをプレイすることで統合失調症患者の認知機能とメンタルヘルスが有意に改善できることを報告しました。
今回の治療実験で使われたのは、日本生まれの大人気ゲーム「スーパーマリオ」です。
研究の詳細は2024年5月28日付で医学雑誌『Translational Psychiatry』に掲載されています。
目次
- 実はゲームは脳にいい?
- 100人に1人がかかる「統合失調症」の症状とは?
- スーパーマリオで統合失調症が改善した!
実はゲームは脳にいい?
「ゲームが病気の治療に役立つ」と聞くと、多くの人は意外に感じるのではないでしょうか。
たいていゲームは健康や発育にとって目の敵にされやすく、皆さんも幼少期に「ゲームばかりするとバカになるよ!」と母親に叱られた記憶があるかと思います。
ところが近年の研究では、ゲームをプレイすることで健常者の認知機能や脳の構造を改善できることが示されつつあるのです。
こうした効果はゲームに特有の目標志向から生じると指摘されています。
例えば、マリオならピーチ姫を救い出すとか、ポケモンならチャンピオンになるとか、ゲームの大半はプレイヤーに「何らかのステージやミッションをクリアする」という目標を与えるものです。
専門家らは、このように目標を追うことがプレイヤーの脳の報酬系を活性化させて、神経可塑性を高めるのだと説明します。
神経可塑性が高まるとは、脳の神経細胞のネットワーク間に新たな接続を作り出すことで、脳の構造が再配線され、認知機能が改善されることを意味します。
これを踏まえて研究チームは今回、ゲームをすることが「統合失調症」の改善に役立つのではないかと予想しました。
というのも統合失調症では、脳の神経可塑性が低下することで、認知機能やメンタルヘルスが悪化することが知られているからです。
100人に1人がかかる「統合失調症」の症状とは?
統合失調症は、自分の気持ちや考えがまとまらなくなる状態が続く精神疾患です。
約100人に1人が罹患するとされており、まったく珍しい病気ではありません。中でも思春期〜40代にかけて発症しやすいといわれています。
では統合失調症になると、具体的にどんな症状があらわれるのでしょうか?
まずは認知機能が低下することで、物忘れが多くなったり(記憶力の低下)、勉強や仕事に集中できなくなったり(注意・集中力の低下)、タスクの優先順位をつけて計画を立てることが難しくなります(判断力の低下)。
それから次に、本来あるはずのものがなくなることを意味する「陰性症状」があらわれます。
例えば、
・今までできていた喜怒哀楽の表現が乏しくなる「感情の平板化」
・相手の話がうまく理解できなくなったり、比喩表現が使えなくなる「思考の貧困化」
・自発的に何かをしようとする意思がなくなる「意欲の欠如」
・やる気がなくなって、自分の世界に閉じこもる「引きこもり」
などが起こります。
そしてさらにひどくなると生じるのが、本来ないはずのものがあらわれる「陽性症状」です。
これには例えば、
・誰かにずっと監視されているような気がする「妄想」
・自分しかいないのに誰かの声が聞こえたり、姿が見えてしまう「幻覚」
・思考が混乱して考え方に一貫性がなくなり、支離滅裂なことを話してしまう「思考障害」
などが挙げられます。
これらはどれも生活の質を落とし、社会交流を困難にする深刻な症状です。
そこでチームは、ゲームを使ったトレーニングが脳の接続性を高めて、症状を緩和できるかどうかを検証しました。