テレビ、新聞、識者・専門家の多くは、既成政党、既成団体を拠り所にして、言論活動をし、情報を発信しています。50代以上の国民もそれらを拠り所にして、判断し投票する。その世代が社会から退いていくと、社会の主軸は「ネット地盤層」に移る。

それは既成メディア、既成政党・団体、既成政治の危機をもたらします。規制メディアが政治、経済、社会情報を流しても、ネット地盤の社会層は見向きもしないし、接点もない。政府、政権が発表する政策は、もともと嘘の多い実現不可能なスローガンが多い。「ネット地盤層」はそれを知っているから、ますます離れていく。

一例をあげると、4月の新聞発行部数(ABC部数)は、読売48万部減(592万部)、朝日33万部減(342万部)、毎日26万部減(152万部)、日経19万部減(137万部)です。毎月、前年比でもう何年も10%程度ずつ、減っている。

既成ジャーナリズムは、「ネット地盤層」が関心を持たない既成政権、既成政党、既成団体から情報を取得する。それをいくら流しても、読まれない、見てくれない。

石丸氏は開票後のテレビ番組で、「NHKを始め、マスメディアは当初、私のことを全く扱わなかった」と、不満を述べました。既成メディアの情報源は既成政党、既成団体、政府などですから、そうなります。

開票結果への感想を民放テレビで求められると、「都民の総意が表れた」とだけ答えました。その意味はそれぞれが自ら考えることだという意味でしょう。今後の政治活動を聞かれて、「広島1区、岸田首相の選挙区」と答え、「都知事になると望んでいながら、今度は広島1区というのは無責任ではないか」という意味の質問が飛びました。

「地上波は何やっているの。腑抜けたインタビューをさせるのじゃない」と切り返されました。「広島1区」というのは、可能性の一つであり、いろいろ仕掛けてみたいとの意味でしょう。大真面目で追及する既成メディアと問題意識が違う。

新聞の社説をみると、まず「党派色の薄い石丸氏が健闘した要因は、自民党の政治資金問題への批判がある」(日経)、「石丸氏はSNSを駆使して若年層への浸透を図った」(読売)。既成メディアが考えるべきことは、「ネット地盤層」が社会の中軸となる時代に向けたメディアのありかたです。

朝日は雑報で「石丸氏、若年層の受け皿」と書きました。「受け皿」どころか、大きな政治的うねりを起こし始めている。既成の政治ジャーナリズム枠外の次元で、政治、社会が動き始めている。それにどう対応するか。そこが本質的な課題なのです。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年7月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。