全裸女性に性交させた「低体温実験」
ラッシャーの狂気の人体実験には他に、極寒の海に落ちたパイロットを救出できるかどうかを調べる「低体温実験」がある。この実験では、被験者を氷点下の冷水に最大3時間に浸からせた後、さまざまな手段で彼らを蘇生させようとした。ランプやシーツ、熱湯などにとどまらず全裸女性も利用された。凍死寸前の被験者に全裸女性を抱きつかせたのである。ラッシャーは、熱湯が最も効果的であるが、性交も比較的効果的であると述べている。
この実験では被験者の多くが凍死し、死者数は約90人とされる。戦後、低体温実験のデータは、医療倫理学者や低体温症の研究者によって有用であると認定された。倫理的な問題はあるものの、米国政府はラッシャーの研究、さらにはナチスの科学全体を重視した。ドイツ人の優秀な科学者をドイツからアメリカに連行した「ペーパークリップ作戦」では、戦後1年間で約800人のドイツとオーストリアの科学者が渡米した。
宇宙医学のパイオニアであるヒュベルタス・シュトルークホルトは、ドイツ空軍の航空医学研究所の所長を務めていたが、後に米空軍向けに独自の圧力実験を行って宇宙服の開発に寄与した。彼はラッシャーの実験結果に関心を示していたといわれる。