ナチス・ドイツは非人道的な実験を行っていたことでも有名だ。死の天使と呼ばれたヨーゼフ・メンゲレは双子の姉妹を結合するなど常軌を逸した、悪趣味な実験を行っていたことで知られている。だが、メンゲレの影にもう1人、狂気のナチス医師がいた。それがナチス軍医のジクムント・ラッシャーだ。
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※ こちらの記事は2022年10月15日の記事を再掲しています。
アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツは、ユダヤ人などに対する大量虐殺(ホロコースト)だけでなく、非人道的な人体実験も繰り返した。
人命を尊重すべき立場にある医師たちが、興味本位で無意味な実験を行い、生きている人間に苦痛を与えて死に至らしめた。このような狂気の医師の一人にジクムント・ラッシャーがいる。
約80人が死亡した「低気圧実験」
戦闘機のパイロットが受ける大気圧の影響は航空医学の重要テーマの一つである。このテーマについてはドイツ空軍も関心を寄せていた。というのも、機密偵察任務のために45,000フィート(約13,000メートル)の高さから戦闘機を急降下させる必要があったためである。しかし、研究倫理や人命尊重の理念から研究が進んでいなかった。これを覆したのがナチス親衛隊の医師で空軍軍医でもあった、ジクムント・ラッシャーだった。
ラッシャーの「低気圧実験」と呼ばれる人体実験では、さまざまな高度において大気圧が人体に及ぼす影響がシミュレートされた。圧力をすばやく、もしくはゆっくりと変えることで、戦闘機の緩やかな上昇から急速な自由落下まで、さまざまな状況を再現した。
通常の自由落下実験では空軍のボランティアが被験者となるが、特定の高度に達すると、仮に命に関わらないにしても危険である。そのため、実験を行うのは困難を極める。ラッシャーはダッハウ強制収容所の収容者を被験者とすることで、人体への安全性の限界をはるかに超える高さからの降下をシミュレートした。
ラッシャーらの報告で詳述されている典型的な実験では、被験者は酸素の薄い47,000 フィートの高さから落下させられたという。ラッシャーの助手だったアントン・パチョレッグは次のように語った。
「私は部屋の観察窓を通して、肺が破裂するまで真空にさらされている囚人の様子を直接見ました。ある実験では、頭に圧力がかかった男性が、発狂し、髪を引き抜いて(苦痛を)和らげようとしました。彼らは頭と顔を爪で引き裂き、狂乱の中で自分自身を傷つけました」(パチョレッグ)
この研究の実験の被験者約200人のうち、約80人が激しい痛みを伴う心臓と脳の塞栓症、さらにはくも膜下出血によって死亡した。