屋久島の杉はスーパーフレア級の太陽フレアを記憶していた?

地球には常に宇宙からの放射線が降り注いでいます。

考古学や地球科学などで年代測定の手段として放射性炭素14が用いられているのは、その値を測定することで年代を推定できるからです。

そこで、樹齢1900年の屋久島の杉の切り株に見られる年輪の放射性炭素14を測定したところ、774~775年にかけて12%の濃度の増加が見られることがわかりました。

これは北米や南極で測定したデータとも一致したため、地球全体で放射性炭素14の濃度が増加したと考えられています。

屋久島の縄文杉は年輪にスーパーフレア級の太陽フレアを記憶しているかもしれない。
屋久島の縄文杉は年輪にスーパーフレア級の太陽フレアを記憶しているかもしれない。 / Credit:wikimedia

774~775年当時はまだ電気や通信設備はなかったため、大規模な被害はありませんでした。

1204年2月の大きな磁気嵐の時は京都でも低緯度オーロラが見られました。これを記録したのは有名な歌人、藤原定家。定家は「明月記」の中で、「北の方から現れた赤気が山の向こうの火事のようで恐ろしかった」と記しています。

赤気というのは日本におけるオーロラの呼び方で、たびたび日本の歴史の中で観測されており、その度に地球には巨大な磁気嵐が到達していたと考えられます。

「赤気」と呼ばれた江戸時代のオーロラ出現に当時の人々はどんな反応をしていたのか?

低緯度オーロラは当時の人にとっては天変地異に等しい恐ろしい現象だったため、奈良時代でも誰かが記録していた可能性もありますが、当時の低緯度オーロラに関する記録はまだ見つかっていません。今後の古文書発見に期待したいところです。

奈良時代にも地球をスーパーフレア級の太陽フレアが襲ったのでしょうか?詳細ははっきりしていませんが、太陽活動で黒点ができる限り太陽フレアを防ぐことはできません。研究者による太陽の観測は今後も休みなく続きます。

太陽活動はおよそ11年周期で活発になります。現在活発な太陽活動は2025年まで続くとされているため油断は禁物です。巨大な黒点はまだ作られる可能性があるからです。

2024年5月11日に青森県で撮影された低緯度オーロラ。北の空に肉眼でも淡い光が確認できたという。
2024年5月11日に青森県で撮影された低緯度オーロラ。北の空に肉眼でも淡い光が確認できたという。 / Credit:KAGAYA (@KAGAYA_11949) May 11, 2024

スーパーフレア級の太陽フレアに襲われると現代のライフラインともいえる電気や通信設備が使えなくなり、最悪の状態で2週間程度、激甚災害に見舞われたのと同じ状態になるといわれています。

考古学的な記録を見ると、太陽でも十分に甚大被害を起こすスーパーフレアは起きると予測されており、様々なテクノロジーで成立している現代の我々の生活は、過去の地球に比べて巨大フレアの被害の影響はかなり大きくなることが危惧されています。

まだ、太陽による災害に実感を持つ人は少ないかもしれませんが、いつか空から訪れる災害についても多くの人たちが危機意識を持っておくことは重要です。

地震や洪水のように地上が破壊される災害と異なり、スーパーフレアによる災害は、地上が無傷でもPCやスマホが破壊され、保存したデータもすべて失われると言った機械のみに絞った普段とはまったく異なるタイプの災害になると予想されています。

当然電気機器が破壊されることで上下水道の停止や、通信の利用不能で情報を得られなくなったり、110番や119番が使えなくなるといった状況も想定されます。

こうしたスーパーフレアによる異質な災害は、きちんとその被害のタイプを理解して備えていなければ、大きな混乱を引き起こすことになるでしょう。

少しでも空から訪れる災害にも意識を向け、そのとき何が起きるのかは知っておいた方が良いかもしれません。そしてたまには宇宙天気予報もチェックしておくようにしましょう

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参考文献

国立天文台広報ブログ「太陽フレアを監視せよ!」
https://www.nao.ac.jp/news/blog/2023/20230330-solar.html#top

自然科学研究機構 国立天文台 太陽観測科学プロジェクト
https://solarwww.mtk.nao.ac.jp/jp/ssobs.html

公益財団法人日本アイソトープ協会「屋久杉の年輪から分かる宇宙放射線量の変化」
https://www.jrias.or.jp/books/cat3/2012/704.html

ライター

百田昌代: 女子美術大学芸術学部絵画科卒。日本画を専攻、伝統素材と現代素材の比較とミクストメディアの実践を行う。芸術以外の興味は科学的視点に基づいた食材・食品の考察、生物、地質、宇宙。日本食肉科学会、日本フードアナリスト協会、スパイスコーディネーター協会会員。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。