東南アジアのキャッシュレス決済と、それに付随する会計システムには日本の投資家からも熱い視線が注がれている。

今年6月、三井住友グループのSMBC Asia Rising FundがインドネシアのPT Pakar Digital Globalという2017年創業のスタートアップに出資を実行した。PT Pakar Digital Globalは「Paper.id」というデジタル請求書プラットフォームを開発し、すでに広く普及させている。

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このPaper.idは、インドネシアの中小零細事業者の事務作業を大幅効率化するというもの。日本の大手金融機関がここに可能性を見出しているところに注目したい。

即時決済可能のデジタル請求書を発行

例として、ここに卸売業者Aがいるとする。彼は小売店Bに米を30kg納入した。小売店Bはその支払いを後日払い、つまり買掛を選択した。こうした信用取引は、インドネシアでは珍しくないという。

卸売業者Aは請求書を作って小売店Bに送るのだが、問題はそこから決済までの流れだ。

インドネシアの一部では、いまだに紙や現金での取引が行われている。サプライヤーが紙の請求書を作成して郵送したり、対応している支払い方法が現金振込のみだったりするパターンも多い。そのため、支払いの遅延や請求書の支払い管理が煩雑になるといった課題が発生しがちだ。

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Paper.idではデジタル請求書を発行し、それをSMSで送信することが可能。請求書作成機能だけでなく決済機能も内蔵されているため、受け取った側は確認次第すぐさま決済に臨めるという仕組みだ。対応決済手段はクレジットカードのほか、インドネシアの統一QRコード決済「QRIS」や各大手決済サービスの名も。

全国60万以上の事業者が活用

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さらにPaper.idは、電子印鑑「e-Meterai」に対応するプラットフォームである。

日本では近年、都道府県発行の収入証紙を廃止する動きが活発になっている。国発行の収入印紙も徐々になくなっていくのではという見方もあるが、インドネシアの場合は収入印紙そのものを電子化する方向性に舵を切っている。それがe-Meteraiだ。500万ルピア以上の取引では、このe-Meteraiの貼付が求められる。

そうしたことも複雑な操作なく実行可能であるPaper.idは、現時点でインドネシア全国60万以上の中小零細事業者にサービスを提供。発行した請求書数は800万以上にのぼる。

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Paper.idを採用している企業の中には、地場系飲食チェーン店であるKopi Kenanganの名も並んでいる。

このKopi Kenanganは、完全密閉できる容器と予約注文アプリを駆使して極力客席を減らした省スペース店舗を展開していることで知られる。オフィスビルのデッドスペースを活用する形で、バリスタの作業するカウンターだけを置いた「客席のない店舗」を設けていることも。外資系コーヒーショップよりも格安の値段で現地の若者に支持され、すでにシリーズC投資ラウンドまで経ている地場飲食店の新星だ。

そんなKopi Kenanganは昨年、主に内部サプライヤー管理を目的にPaper.idを正式採用。今回のパートナーシップを通じて、Kopi Kenanganは1つのシステムで数千の請求書を管理し、原材料の供給を監視できるようになったという。