5日実施されたイラン大統領選挙の決選投票で改革派の医師、ペゼシュキアン元保健相(69)が対抗候補者の保守強硬派のジャリリ最高安全保障元事務局長(58)を10ポイント余りの大差をつけて当選した。
改革派大統領の誕生でイランの民主化が進むのではないか、といった期待の声も聞かれるが、イランの実権は最高指導者ハメネイ師(85)が掌握している点では変わらず、大きな変革は期待薄という見方が支配的だ。大統領選はライシ大統領が5月19日、搭乗していたヘリコプターの墜落事故で死去したことを受け、急遽実施された。
大統領の任期は4年間。新大統領は停滞する国民経済の活性化を最大の課題に掲げる一方、言論の自由、インタ―ネットの規制緩和、女性へのスカーフ着用義務の一部緩和を実施したい意向といわれる、同時に、対欧米社会との関係改善にも力を入れ、核開発問題ではウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)との協力再開などを通じて、対イラン制裁の緩和を目指すものと受け取られている。
ぺゼシュキアン氏が決選投票で得票率53.7%を獲得し、強硬派候補者(約44%)に大差をつけて当選した背景には、イラン国民が閉鎖した社会から刷新を期待し、特に若い国民が今回、棄権せずに新大統領に投票した結果と受け取られている。
イランでは過去、「文明間の対話」を提唱したハタミ師(任期1997~2005年)やロウハニー師(2013~21年)ら改革派大統が登場したが、その改革路線は中途半端に終わり、ライシ前大統領時代に入ってからはイラン革命防衛部隊(IRGC)が力をつけ、強硬路線を展開してきた。
22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさんが2022年9月、イスラムの教えに基づいて正しくヒジャブを着用していなかったという理由で風紀警察に拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、同月16日、病院で死去したことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求した抗議デモが広がっていった。