突然ですが、映画監督のグ・スーヨン氏をご存知でしょうか? 映画だけでなくビールなど飲料系のCMも多く手掛けているので、映画に興味がない方もグ・スーヨン監督の作品はきっとご覧になったことがあると思います。

個人的には1990年代に「私脱いでもすごいんです」で話題になった北浦共笑さん出演のTBCのCMが印象に残っています。いずれにしても、インパクトの強い作品を出す監督です。

そのグ・スーヨン監督の「幽霊はわがままな夢を見る」、心理学的に非常に興味深い映画ですのでご紹介します。

この映画、観終わったらなんとも言えないカタルシスがあるんです。主人公を取り巻く問題は何も解決していないのに…。まあ、私たちの日々の暮らしもそういうものですよね。みんな、解決しない問題を抱えながら生きているのですから。

そして、この映画をさらに面白くしているのは、登場人物それぞれの「解決しない物語」が幾重にも重なり合いながらも、決して彼らの心が交わらないのです。正直、もどかしい…。ですが、そのもどかしさが強い分、最後に「わずかな点」がつながるカタルシスがあります。

俳優のみなさまの良い意味での「癖」もそれぞれ物語をさらに魅力的にしていますので、素人が見ても楽しめる素晴らしい映画です。

誰もが観る価値がある一作です。ここではネタバレ一切なしの心理学解説になりますが、ぜひ映画そのものも御覧いただければ幸いです。

「怒りの美しさ」と「人の性」

さて、概要やあらすじは専門のサイトでご覧いただくとして、ここでは心理学的な見どころを2つ解説したいと思います。

表題にもしていますが、一つは「怒りの美しさ」、そしてもう一つは「人の性(さが)」です。

この映画は、この2つが監督独特のリズム感の中で見事に描き出されています。

美しい怒りと醜い怒りの境目

まず、「怒りの美しさ」について。突然ですが、あなたは美しい怒りと、醜い怒りの境目をご存知でしょうか?

実は心理学的には怒りと悲しみは裏表の関係にあります。意外と知られていませんが、怒りと悲しみは本質的には同じものなのです。

そして、怒りの背景にある悲しみが共感できるものであるほど、怒りはその人を美しく彩るオーラのようなものになります。北斗の拳のケンシロウやMarvelムービーのAvengersがカッコよく見えるアレです。