「報道評議会」を創設せよ
根本的な問題を指摘できなかったのは、「開かれた新聞委員会」の力不足といったことではなく、各社に設けられる第三者委員会の限界だと思う。やはり、外部機関による検証の仕組みが必要だ。
主要国の多くでは、「報道評議会」などの名称の機関を、新聞社などが共同して設けている。報道被害の申立てを受け、報道内容を検証して勧告などを行い、各社はそれに服する仕組みだ。報道機関は、報道の自由を有する一方、報道の信頼性を高める社会的責任が求められるとの考え方に基づく。
日本では、テレビ・ラジオでは放送倫理・番組向上機構(BPO)が存在するが、新聞では外部検証の仕組みがない。本来、新聞は「社会の公器」として軽減税率適用なども受けているのだから、信頼性を担保する仕組みを欠いているのはおかしなことだと思う。
先日刊行した『利権のトライアングル』(産経出版社、高橋洋一氏と共著)では、高橋氏との対談で、一連の訴訟経過や国会の問題、最近の政策動向などを分析するとともに、「報道評議会」についても意見を交わした。
この点は、実は高橋氏と意見が合わない。高橋氏は「ネットメディアが拡大しているから、新聞はもう要らない」との意見だ。これに対して、私は「ネットメディアが拡大しているからこそ、新聞の役割が重要になる」との考えだ。
ネットメディアは優れたものも多いが、やはり玉石混交だ。野放図な言論の自由市場では極論やデマの拡散も起きがちだ。だから、信頼性の高いメディアが求められると私は思う。
社会に不可欠なメディアとして新聞を再興するため、「報道評議会」の創設に向けて取り組むつもりだ。
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【参考】1)「開かれた新聞委員会」の見解
毎日新聞の報道に人権侵害や報道倫理上の問題があったとして、原英史氏が当委員会に対し検証を求めた2024年2月14日付の申し立てを受けて、当委員会は毎日新聞社側から取材・報道の経緯について詳細な説明を受け、討議しました。
まず、原氏と毎日新聞社間の名誉毀損訴訟の最高裁決定を受けた24年1月12日朝刊の記事「取材と報道 経緯説明します」の中で、「判決では、WG(ワーキンググループ)委員の協力会社が特区の提案者からコンサルタント料を得ていたという報道が事実だと認められた」と記述したことについては、そもそも訴訟で争点になっておらず、申し立ての指摘する通り「事実だと認められた」とは言えません。本委員会の調査依頼に対して毎日新聞社側は掲載前の原稿の点検で間違いに気づかなかったと説明していますが、報道機関として事実確認を徹底する体制作りを求めます。
それ以外の申し立てに関しては、国家戦略特区を巡る一連の取材・報道を巡り、法令や報道倫理の観点から指摘すべき重大な問題点は見当たりませんでした。
ただし、読者の視点に立って一連の報道を振り返ってみると、気になる点もあります。国家戦略特区制度における政策決定過程の透明性・公平性を確保することの大切さをより明確に伝えるべきだったと考えます。そうした報道姿勢が徹底していないために、続報の中には個人に焦点を当てすぎたと捉えられる書き出しがあり、読み手が本文の内容と必ずしもそぐわないと感じる可能性のある記事が見られました。
また、読者の理解を助けるために掲載する図表類についても、作り手の意図していない受け止められ方がされないよう、これまで以上に注意を払う必要があります。
裁判所で名誉毀損が認定された19年6月11日朝刊記事の表現の行き過ぎた部分とともに、これらを反省材料とし、今後の報道に生かしてほしいと考えます。
メンバー 小町谷育子委員 弁護士 治部れんげ委員 東京工業大准教授・ジャーナリスト 武田徹委員 専修大教授 西田亮介委員 日本大教授・東京工業大特任教授(50音順)
2)私のコメント(「原英史氏の話」として毎日新聞紙面に掲載)
毎日新聞は、自社の記事の名誉毀損が認定された判決を報じる記事で、新たな虚偽を重ねたことが今回認定されました。同社の報道体制に疑義を呈した委員会に敬意と謝意を表します。また、読者の視点に立つと「気になる点」があるとして、一連の報道について「個人に焦点を当てすぎた」等と認めたのは、私が指摘した問題の存在を委員会として実質的に認めたものです。
しかし、私を貶め続けた報道キャンペーン全般に関して「重大な問題点は見当たらない」とされたことには甚だ失望しました。これでは、今後も報道冤罪を生む可能性が否めません。
新聞界においても、放送界と同様、独立した第三者検証機関を設ける必要性が明らかになったと思います。