一方、「統計学的に分けて推定しているので、単純に両者の差を求めることは統計学的方法において誤ったものとみなされる」という見解には筆者は賛同できないため、その点に関する質問書を感染研へ送付しましたが、現時点で回答は得られていません。
そのため、論文においては「累積グラフの超過死亡数より過少死亡数を引くことの妥当性に関して結論を出すことはできず、今後検討されるべき問題として残された」という表現になりました。
私が過少死亡数の問題点を指摘したのは2021年12月です。そしてこの時、過少死亡数の問題点を指摘したメールを厚労省に送付しました。問題を認識しているにも拘わらず、それを2年半にもわたり放置することは、感染研の怠慢と言わざるを得ません。
次に、「感染研の超過死亡の定義はWHOのそれとは異なる」という問題について考えてみます。
超過死亡という概念は、1973年にWHOによりインフルエンザ発生動向の監視や包括的健康影響評価を目的として提唱されました。WHOは超過死亡数を「平時に予想される死亡数と危機発生時の死亡数の差」と定義しています。
超過死亡を「例年と比べてどれだけ死亡者が多いかを示す指標」と理解している人も多いと思われますが、WHOが提唱した超過死亡の概念とは異なります。Our World in Dataにおいての定義もWHOと同様です。
超過死亡をどのように定義するかは極めて重大な問題です。WHOの定義に従うのであれば、超過死亡を算出する際の比較データはコロナパンデミック以前のデータを使用 しなければなりません。
ところが、感染研の超過死亡ダッシュボードではパンデミック中のデータも比較データに含めて計算されているのです。つまり、感染研のダッシュボードの提示する超過死亡数は、WHOが提唱する超過死亡数とは異なる数値なのです。この問題は、以前の論考で指摘しました。
この問題は2023年の超過死亡で顕在化します。まず、感染研の2023年の超過死亡のグラフを見てみます。
2023年3月中旬以降の超過死亡数は、ほぼマイナスです。
次に、Our World in Dataのグラフです。
2023年の超過死亡は一貫してプラスであり、9~10月の超過死亡率は約11%まで上昇しています。 感染研のグラフとは全く異なります。
NHKは、2023年6月、以下のように報道しています。
ことし3月20日以降、先月中旬までの8週間について、超過死亡が出ているか1週間ごとに調べたところ、全国でも地方ごとでも、過去5年間のデータから推計される死亡者数と比べて顕著に増えた時期はなかったことが分かりました。分析に当たった専門家は、新型コロナによる死者はいたが、大幅な増加はみられなかったと考えられるとしています。
既に述べたように過去5年のデータと比較しても、コロナパンデミックの影響は分かりません。NHKは感染研の発表を盲目的に信用しているため、このような誤解を招く危険のあるメッセージを国民に 発信してしまうのです。
感染研はこれらの問題について感染研のWebサイトで丁寧に解説するべきです。解説が不十分であるため、感染研も自認している「超過死亡の定義や解釈を巡る混乱」が生じていると考えられます。