小池さんがこんなドラスティックな都政をやってるイメージが皆無だったので、僕は調べてて最初「8兆円から2400億円」が「3%」であるはずがないと思って、

「0.3%ぐらいか・・・まあそんなもんかな。え?あれ?3%?」

…とか本能的に計算間違いしちゃったぐらいでした(笑)

あと小池さんは、コロナの時に調整基金(いざという時の貯金みたいなもの)からドカーンとほぼ枯渇するぐらい支出して補助を出して、無駄遣いなのかな?と思ったら、その後は順調に積み立てを回復させていたりして、

使う時はドーンと使う、無駄遣いをやめる部分はやめる、堅実に貯めないといけない部分はちゃんと貯める

…みたいな部分は実はすごいやり手な部分を持ってると思います。

また、元ヤフー社長の宮坂学さんを副知事にしてDXを進めて、かなりの進歩があったのも「百合子案外やるじゃん案件」ですよね。

一方で「批判」を受けているものとしては、都庁のプロジェクションマッピングが話題ですが…

「50億」というネットで流通してる数字は都庁単体のものではなく、都庁部分は年間7億(二年で16億)、その他の都内の色々な場所のプロジェクションマッピングを含めて二年で総額48億円だそうです。

これ、無駄遣いの象徴のように言われていますが、東京都の予算はほとんど普通なら「国」レベルの年間8兆円もあるんで、2年総額48億円なら0.03%の話でしかないんですよね。

なので、インバウンド観光に関する調査で「東京はナイトタイムアトラクションが弱い」という結果が出たのを受けて「じゃあなんかやるか」といって出す予算としては、そこまでめちゃくちゃ法外というわけでもないと思います。この記事によると開始三ヶ月で20万人と、まあまあお客さんも来てはいるらしい。

実際このアエラの(この件についてまあまあ批判的に扱ってる)記事でも、プロジェクションマッピングの会社に取材した返答として以下のように述べられていて、めちゃくちゃ法外にお金を取られてるわけでもなさそう。

「10分から15分の長さで5パターンあり、合わせると1時間弱になります。プロジェクションマッピングという複雑で特殊な映像を作るにはかなりの手間が必要になります。億単位の費用がかかっても仕方ないのかなと思います。むしろよく5パターンを用意できたなという印象です」 とのこと。 投影に使う機材の費用については、 「パナソニックから、2千万円するプロジェクターを20台、5千万円のプロジェクターを20台、計40台を借りていますね。4月末までのレンタル代や整備費などでも数千万円を超える金額になるのではないでしょうか」 と語った。

もちろん、それを電通や博報堂しか受注できない形になってるのが密室じゃないか、みたいな可能性は確かにあるし、契約プロセスも不透明で問題がありそうで、もっと野心的な個人アーティスト寄りのベンチャーなんかが請け負って、もう少し安くできないか?という可能性もゼロではない。(でも最近どんどん忙しくなる公務員の働き方を考えるとそこまで細かくやってらんないよ…という実情が公的機関にはありそうで、難しい問題ですね。)

また、50億あればもっと生活困窮者支援に使うべき、みたいな話は確かに否定できない意見ではあると思います。

ただどちらにしろ、小池都政全体としてはかなり「無駄取り」をして2400億円も引き出したりしているわけなので、この「プロジェクションマッピングの一例」を持ってして「小池都政は無駄遣いしまくってる放漫財政」だと考えるのはかなり無理がある特殊事例ではあるのは確かですね。(批判がめっちゃ集まれば小池氏はサラッとやめちゃったりしそうですし…)

要するに、ここまで見ればわかるように、小池都政というのは、「単なるバラマキ」政権というよりは、かなりドラスティックな予算の組み換えを行う「やり手」部分を一応ちゃんと持ってるということなんですね。

ただの「選挙の悪魔」みたいな存在じゃない。

「小池都政に挑戦」する陣営は、まず「ここの部分」をキチンと認めた上でちゃんと自分たちはそれよりすごいことができるということを示していくべきではあるんですね。

3. 「ステルスやり手執行人」と「密室政治」のジレンマ

小池都政ですごいなと思ったのは、3%ものドラスティックな予算の組み換えを行っていながら、ほとんど文句が出てないことなんですよね。

なんなら組み替えたことさえほぼ誰も知らず、「無駄にバラマキしやがって」とか思われてるぐらいのステルス度(笑)

泉房穂氏が明石市長時代に1.7%の予算組み換えを行うだけでもあれだけ大紛糾していましたし、安芸高田市の石丸市政も、(石丸さんについての記事で検討したように)将来に向けてのプラン策定は別として少なくとも現時点でそこまでの行財政改革実績が上げられたわけでもない上にあれだけ「揉めまくって」いるわけで。

もちろん、それだけ東京都にはカネがあって誰から見ても無駄な予算がたくさんあったのかもしれず、明石市や安芸高田市とは事情が全然違うとはいえ、この「百合子のステルス実行力」は侮れない有能さと言ってもいい部分はあると思います。

ただし!

この「ステルス実行力」は同時に「密室政治」と表裏一体で、そこが難しいんですよね。

選挙は「劇場型」だけど、行政運営は相当に「寝技」を駆使して行ってるので、そこで何が起きているのか都民からはわかりにくい。

そして、どうしても「お友だち優遇ではないか」というような話も出てきてしまう。(さっきのプロジェクションマッピングの契約プロセスが不透明だ、というような)

また、「小手先の改革」はできるかもしれないが、石丸氏のように長期的視野にたった一貫したプランみたいなのを提示して動かしていく、みたいなことは苦手そう。

逆に蓮舫さんの支持者が望んでいるような「生活困窮者支援」みたいなものも、強い民意が示されれば別ですが、ある程度冷淡な側面はあるかもしれない。

では、この状況下で、私たち日本人は「今の小池都政よりももっと良い政治」を求めるならどのように考えていけばいいのでしょうか?

4. 国民とメディアがプロレスを求めていればプロレス政治しか実現しない

そろそろ、この都知事選関連三本連続記事全体のまとめにも入りたいんですが、要するに今の東京の現状というのはこういう感じなんですね。

A:小池都政は、もともと都民の69%(立民支持者でも6割)の支持を得ている。 B:それは単に選挙アピールがうまいだけでなく、実体としての有能さをかなり含んでいる。そこは直視すべき。 C:ただし「小池百合子型のステルス実行力」は密室政治にどうしてもなりがちであり、もっとオープンな議論をして公明正大に動く政治にしたいニーズは確かにある。 D:また、石丸氏のような「理論的に検証可能な一貫した方向性を出す」とか、蓮舫氏のような「生活困窮者支援の拡充」といった側面も小池氏ではできづらい。

で!

じゃあどうやったら「選挙の悪魔」小池百合子を倒せるのか?って言ったら、「オープンな議論による政治」で、「小池百合子のステルス実行力」以上の緻密な政治が可能になるようになるしかないんですが…

なんか、ここまで見てるとそこが問題なんですよね。

単純にいえば、

国民がプロレスを求めてるから、メディアにおける政治的議論がプロレスにしかならず、現実への責任を持った政治的議論は密室で行われざるを得ない

…という大問題があるんじゃないかと(笑)

先ほどの蓮舫さんの記事でも書いたように、神宮外苑再開発問題も、「内苑の森の自然を守るための現実的に色々と考えられた策であり、外苑の木の総数も増える程度の案ではある」であることを前提としていかにさらにブラッシュアップできるか?という議論ができればいいところ、そういう話は全然伝わらず、

資本主義の毒に侵された悪の事業者どもが金儲けのためだけに都民の貴重な財産を破壊しようとしている!大事な木々を切り刻んでなんの痛痒も感じない汚らわしいケダモノどもの悪辣なプランに、私たち高潔な正義の市民たちが立ち上がるのだ!

…みたいな話にするから、「妄想の中の巨悪相手のプロレス」が「現実的裏付けのある左翼的良心」をクラウディング・アウト(押し出して排除)してしまうことになる。

また、さきほど石丸氏の記事で書いたように、石丸氏のプランも、多分メディアがもっと詳細に彼のプランの細部を理解して、その上で整理して「これからどうあるべきか?」について広い議論を巻き起こしていれば、あんなにコジレた感情的対立みたいになってなかったんじゃないかと思う部分はあるんですよね。

なんかこう、「メディア」の側が政策の細部を理解する能力がなさすぎて、テレビ映えする「恥を知れ!」みたいな部分だけクローズアップされてしまってる側面がある。

じゃあどうしていけばいいのか?

5. ちゃんと”議論ができる国”に変えていこう!

私はよくメディアでの発言やウェブ記事などで、

社会の中になにか問題があった時に、「安易に誰か”巨悪”を設定して叩いて終わり」みたいな紋切り型のガス抜き議論でなく、その問題の背景を深堀りしてどこがスレ違っていてどうすればいいのかを掘り下げるようなメディアの発信こそがこれからの時代には必要なのだ

…という話をすることがあるんですが、そうすると時々、SNSを通じて同世代のマスコミの「中の人」から、

「実は自分もそう思っていたんだ。これからのマスコミの役割はそれだと思う。世代交代もしてきていますし私も頑張ります」

…という声をいただく事が実は結構あるんですね。

それどころか!今回の都知事選候補3連続記事がアップされてから、ある”リベラル系野党”の現役国会議員から、「立場上これをSNSでシェアすることはできないが、倉本さんの話に共感する野党議員は沢山いるとお伝えしたかった」というx(Twitter)のダイレクトメールが届いたりしました(笑)

だから「声の大きな人たちにかき消されてしまっている良識派の問題意識」は既に相当に強く根をはって共有されてると見ていいんじゃないかと思います。

まずはそこから変えていくことが必要だな、と今回の都知事選の3つの記事を書いててすごく思いました。

メディアの議論のレベルがまず一段上がって、外苑再開発問題にしても、地方自治体の財政問題にしても、誰か「巨悪」を叩いて終わりではなく、問題自体を多面的に掘り下げてどうすればいいのかを一緒に考えていく記事をシェアできる環境に変えていかないと、どうしようもない。

「巨悪」を設定して「血祭りにあげる」議論だけがメディアに溢れてると、実際の政治は「百合子型ステルス政治」で実行していくのが最適解になっちゃうわけですよね。

石丸さんの記事でも書きましたが、私が「文通の仕事(興味あればこちら)」で繋がってるある女性の大学生の息子さんが、石丸さんについて

「やっとマトモに話せそうな政治家が出てきたって感じじゃん。あの国会で居眠りしてたり怒鳴ったりしてる自民党の老人よりよっぽど良さそうに思うけど」

…とか言ってたらしくて(笑)

石丸氏の支持者は20−30代が多く、小池氏は40−50代、蓮舫氏は60代以上の支持者が多いそうなので、あと5年とかすればどんどん「石丸氏寄り」の議論スタイルが主流になっていくのは明らかだと思います。

石丸氏はまあまあリベラル(官製婚活事業に忌避感を示す程度には)っぽいので、リベラル寄りの人は石丸氏のようなタイプの人に徐々に再吸収され、保守派寄りの人は小池さんのような「ステルス実行力」タイプに吸収されていきながら、ちゃんと山積みの問題を一個ずつ解決していける情勢になっていければいいですね。

残念ながら(?)今回選挙は小池氏で揺らがない情勢ではありますが、

それは結局「百合子型ステルス実行力」を超えるほどの「オープンな議論をする能力」が、今の日本国民とメディアのレベルでは足りなさすぎるのだ…というふうに受け取るべき

…なのだと思います。

「オープンな議論」で政治が行えるようになるために、私たち自身のレベルアップが必要ってことですね。

今の時点で二位の蓮舫氏を石丸氏が猛追しているそうですが、二位がどちらになるかは見ものですね。

一方で、今のようなインフレ局面で、どうしても広がってしまう「格差」を超えて経済改革を進めないといけないタイミングでは、蓮舫支持者が主張するような困窮者支援予算をある程度拡充することは必要でしょうし、「新小池都政」においても、「そういう民意」を示していくこと自体は大事なことだと思います。(民意さえ示されれば実行する能力は案外小池氏にはありそう)

また、一部で超評価が高い安野たかひろ氏のAI活用プランなんかも、票数が結構伸びてれば小池さんが宮坂元ヤフー社長氏のように吸い上げる事はできると思うので、どんどん実行していってほしいですね。

とにかく、「誰かを血祭りにあげる政治議論」ははやく脱却して、ちゃんと「一個一個の問題をフェアかつ多面的に見て解決を目指す政治」を実現していけるよう頑張りましょう。

今回記事などで私の活動にはじめましての方は、以下の著書などもぜひよろしくお願いします。

『日本人のための議論と対話の教科書』

長い記事をここまで読んでいただいてありがとうございました。

「都知事選特集三本連続記事」の他の2つもぜひどうぞ。

つづきはnoteにて(倉本圭造のひとりごとマガジン)。

編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2024年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。