1秒未満で銀河のあらゆる場所に移動できる

理論が正しければワームホールを使い銀河の何処にでも1秒未満で行ける
理論が正しければワームホールを使い銀河の何処にでも1秒未満で行ける / Credit:Canva

なぜワームホール内部を人間が安全に通過できるのか?

鍵となったのはランドール・サンドラムモデルと呼ばれる理論です。

この理論は真空において素粒子が何もない場所から生成され、勝手に対消滅で消えていく現象を説明したものです。

モデルでは、素粒子の勝手な生成と消滅が起こる理由を、私たちの認識する4次元時空の宇宙はより高度な5次元に内包されており、5次元の空間を移動する素粒子が私たちの宇宙を単に通過したからだと定義します。

詳細な数式の説明は省きますが、この理論を元にワームホールを再定義すると、理論上、人間はわずか20gの負荷を感じるだけでワームホールを通過して、1秒未満の時間で銀河の至るとことに移動することが可能であることが示されました。

ただし、1秒未満に感じるのはワームホール内部を移動している人間だけであり、外部の人間にとっては数千年に匹敵するというウラシマ効果が発生するとのことです。

超光速時代の幕開けになるか?

物理学会の権威ある科学雑誌にワームホール航法が立て続けに掲載されるのは非常に珍しい
物理学会の権威ある科学雑誌にワームホール航法が立て続けに掲載されるのは非常に珍しい / Credit:Canva

今回行われた2つの研究により、ワームホール航法が物理学の常識に反せず、人間にとって安全に実現できることが示されました。

もしこの2つの論文が正しければ、ワームホールさえ生成できれば、人間は銀河全域に進出できることになるでしょう。

現在ワームホールの生成方法は不明ですが、兄弟であるブラックホールのほうは見通しが立ちそうです。

現在人類が稼働させている粒子加速器は、理論的に極小のブラックホールを生成できると考えられており、世界各地でブラックホールを生成するプロジェクトが進行しています。

粒子加速器で生成されるブラックホールは非常に小さい上に短時間で消滅すると考えられているため、地球や太陽系が飲み込まれてしまう可能性はわずかです。

遠い将来、ブラックホールに続いてワームホールも生成できれば、人類は本当に星々の海に漕ぎ出すことができるかもしれません。

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参考文献

Physicists Propose New Idea for “Human-Safe” Wormholes
https://futurism.com/physicists-human-safe-wormholes

元論文

Traversable Wormholes in Einstein-Dirac-Maxwell Theory
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.126.101102#fulltext

Humanly traversable wormholes
https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.103.066007#fulltext

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?