殺された娘の霊が母親を衝き動かしたのか――。驚くべきことに、かつて心霊現象が法廷に影響をもたらし結審に至った殺人事件がある。
■熱愛新婚カップルの妻が変死
当然だが法廷での証言や言及には、科学的客観性が伴っていなくてはならない。もちろん発言者の信念に基づく発言は宣誓供述として受け入れられることもあるが、そこに客観的な証拠があるのか、それともないのかについては白黒はっきりつけられる。
しかし過去、驚くべきことに殺された者の“幽霊”からのメッセージが裁判を左右した興味深いケースが残されている。いったいどういうことなのか。
米・ウェストバージニア州南部にあるグリーンブライア郡に、ある“年の差婚”のカップルがいた。歳の離れた年長の夫は鍛冶屋のエドワード・シューで、妻はゾーナ・ヘスターであった。
ヘスターの母親メアリー・ヘスターはこの結婚には反対で、年の差についてはもちろん、シューがこれまで2回結婚していることに何か危険を感じていたのだ。しかも、シューの2人目の妻は不審な死を遂げていたのである。
母親の反対にもかかわらず、熱愛の末に結婚した2人だが、残念ながら新婚生活はわずか3カ月しか続かなかった。
1897年1月23日、使いの少年が用事で新婚夫妻の家を訪れた時、家には誰もいないようだった。少年は本当に誰もいないのかを確認するため声をかけながら家の中に入ってみると、階段のふもとの床の上に酷い形相のゾーナの死体を発見して驚くことになる。ゾーナの目は大きく見開かれ、恐怖の形相で天井を見上げていたのだ。
驚いて腰を抜かした少年はすぐ家に帰り、母親にこの恐ろしい発見について話した。母親は地元の医師にこの件を伝え、夫妻の家に行くように促した。しかし、すぐには動けなかった医師が夫妻の家に着いたのは連絡があってから1時間後のことだった。
それまでの間に、シューはゾーナの遺体を2階の寝室へと運び、ベッドに寝かせ、死因となった首の打撲傷を覆い隠すようにハイネックのドレスを着せて顔を布で覆った。
医師が到着し遺体を検査している間、シューは悲しみに暮れてずっとすすり泣いていた。ゾーナの首の打撲傷に医師が気づき、さらに遺体を検分しようとするとシューはそれを遮り、愛する者の遺体にこれ以上手をかけてほしくないと願い出て、検査を中断させたのだった。
医師は結局、ゾーナは妊娠に関係した何らかの症状で死亡したと診断した。その後、ゾーナの葬式が行われ、参加者の目には深いショックと悲しみに打ちひしがれている夫シューの姿が深く印象づけられた。ゾーナの遺体の首にはスカーフが巻かれていたという。