東京都知事選の大きな争点にもなっている明治神宮外苑の再開発をめぐり、事業主体の1社である三井不動産が声明を発表。樹木が伐採され環境が破壊されるとする反対派への反論を長文で記述し、話題を呼んでいる。開発による収益が<内苑の森、外苑の緑を守るための維持費等に充当される>とし、<4列のいちょう並木ついては、本まちづくりの最重要事項のひとつとして確実に保全いたします><開発後のみどりの割合は約25%から約30%に、地区内における樹高3m以上の高木本数は既存の1904本から1998本に増加する>と計画を説明。同社をめぐっては4日発売の「週刊新潮」(新潮社)が、東京都の幹部14人が同社と三井不動産レジデンシャルに天下りしていたと報じており、さらに東京都知事選投票日の直前というタイミングでの声明発表となったが、背景には何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

「神宮外苑地区第一種市街地再開発事業」は、2018年に東京都が策定した「東京 2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」に基づくもの。三井不動産、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事の4事業者がコンソーシアムを組み推進し、神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替え、高さ約200メートルのオフィスビル2棟、宿泊施設が入る80メートルの複合ビルを建設する。整備面積は28.4ヘクタールで総事業費は約3490億円、2036年の完成予定となっている。現在は第2球場の解体工事中だ。

<手続きは、これまで行政等と協議を重ねながら適切なプロセスを経たものと考えています。(略)また、近隣の方々を対象に、これまでに手続き上定められた説明会6回に加えて任意の説明会を3回開催いたしました>(5日付け三井不動産プレスリリースより)

 批判を浴びているのが、837本を植樹する一方で700本以上の高木を伐採する計画だ。東京都は23年2月に工事の施行を認可したが、ユネスコの諮問機関「イコモス」は再開発の中止を求めて「ヘリテージアラート」と呼ばれる警告を発出。住民からも東京都の施行認可の手続きは違法だとして取り消しなどを求める訴訟が提起されるなど、世論からの反発も強まっていた。これを受け都は23年9月、事業者に対して具体的な樹木の保全方法の見直し案を示すよう要請し、伐採と移植の開始がずれ込んでいる。

「老朽化が激しい神宮球場と秩父宮ラグビー場の所有者はそれぞれ明治神宮、JSCだが、建て替えの費用を捻出するのが難しい。そこで両施設を含む神宮外苑エリア全体を再開発する計画にし、容積率の割増や高さ制限の緩和を行うことで大規模な商業施設の建設を可能にし、民間企業の投資を呼び込むことで神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替え資金を確保するというのが、再開発プロジェクトの根底にある目的。

 反対派は樹木が伐採される点を強調しているが、神宮外苑の膨大な数の樹木を維持するには資金が必要であり、土地の所有者である明治神宮が将来にわたって資金を負担し続けるのは難しい。つまり、現在の規模の緑を維持できない懸念があり、民間投資を呼び込んでエリア全体の経済が活性化すれば資金が生まれ、緑を維持・増加できる可能性もある」(大手不動産会社社員/5日付け当サイト記事より)

<高木本数は既存の1904本から1998本に増加する見込み>

 開発計画への反対の声が高まるなか、事業主体の1社である伊藤忠商事は3日、「神宮外苑再開発について」と題するリリースを発表し、同社の施設が環境活動家に落書きをされたり、株主総会で妨害的行為を行われたと報告。以下のとおり反対派への反論も交えて計画の目的を説明していた。

<当プロジェクトは、既存樹木を出来る限り守りながら移植や新植もおこない、緑の量をこれまでよりも増やし、より豊かな自然環境を創っていくという計画です>

<当プロジェクトは神宮外苑の「みどりを守る」ために、その資金を捻出する周辺施設建替を行うものです>

<(編注:株主総会で)環境活動家の方が、議長からの論点整理等のお願いにも拘わらず、長々と持論を展開されるという事態も起こりました>

 5日には三井不動産も声明を発表し、以下のように綴っている。

<神宮外苑には、今のままでは、次の世代にバトンタッチできない不都合な真実が存在します>

<(編注:明治神宮は)宗教法人であるため、公的資金の受け入れには厳しい制約があり、明治神宮単独の財源で神宮球場の建て替え等を行っていくことには限界があることから、本計画においては、補助金等の公的資金に頼ることなく民間資本で推進していけるよう、明治神宮が所有する土地の一部を当社が借地します>

<オフィスビルやホテル等の高層建物を含む複合的な開発をおこなうことで収益を得る計画であり、これを原資に明治神宮へ借地料を支払います。借地料の一部は前払いし、神宮球場の建替資金の一部に充当され、期間中の借地料は内苑の森、外苑の緑を守るための維持費等に充当される計画となっています>

<現在ある樹木については、複数の樹木医など専門家の意見も聞きながら樹木の状態などを詳しく調査し、既存樹木の一本一本を大切に扱いできる限り多くの樹木を保存します。各施設の整備にあたって支障となり、その場では保存できない樹木は原則移植を行います>

<緑地計画においては、新たに樹木を植え、開発後のみどりの割合は約25%から約30%に、地区内における樹高3m以上の高木本数は既存の1904本から1998本に増加する見込みであり、神宮外苑の豊かな自然環境の保全に努めます>

 元ゼネコン社員はいう。

「三井不動産は一般入札で事業者に選定され、東京都から工事施工の認可を受け、住民説明会を9回開催しているので、手続き的には何ら問題はなく、工事を止められる理由はない。報道では樹木伐採や反対派の主張ばかりがクローズされがちで、緑の割合やトータルでの樹木の本数が増えるという点はあまり伝えられず、世間にもその認識が広まっていない。なぜか東京都もその点をきちんと説明しないなか、伊藤忠商事は反対派によるさまざまな妨害行為を受けているとのことなので、三井不動産にも反対の声が多数寄せられていたと考えられる。そこで同社としては、改めて詳細を説明する必要があると判断したのではないか。

『再開発=緑が減る』という固定観念を抱かれがちだが、神宮外苑の緑を減らせば確実にエリアの価値は下がるため、収益をあげる必要がある事業者が自ら緑を減らす計画を立てるとは考えにくい」