バイデン氏は「全ての点で、今日の決定は大統領ができることに実質的に制限がないことをほぼ確実に意味している」と述べた(1:20辺り~)。
が、ロバーツ長官は、憲法と判例に基づいて、大統領の免責特権とその制限を憲法によって行政府に割り当てられた公務のみに限定する詳細な意見を述べ、トランプ弁護団が主張する大統領の職務の「外縁」は不明確であり、それが「公務」か「非公式」かの判断はできないとして、判断を下級裁判所に委ねた。よってバイデン氏の主張は誤りである。
バイデン氏は「大統領職の権力は、合衆国最高裁を含め、もはや法律によって制約されることはない。唯一の制限は大統領自身が自ら課すものとなる」と述べた(1:30辺り~)。
が、判決文には、起訴を回避し、自らに無制限の権力を与えるために「公務」行為と「非公式」行為を定義する権限を大統領に与える条項はないので、これも誤りである。
バイデン氏は、判決は「投票権や公民権の骨抜きから女性の選択権の剥奪、そしてこの国の法の支配を損なう今日の決定に至るまで、我が国で長年確立されてきた幅広い法的原則に対する攻撃」あると考えると述べた(1:50辺り~)。
が、判決は、投票権やいかなる種類の公民権も「骨抜き」にしていない。大統領に公務上の行為に対する訴追免除を与えることは最高裁の判例の範囲内であり、「長年確立された法的原則」を覆すものではない。むしろ異常なのは起訴であって、一部の公的行為が起訴を免れるという判決ではない。
バイデン氏は、トランプ氏が「平和的な権力移譲を阻止するために米国議会議事堂に暴力的な暴徒を送り込んだ」と非難した(2:03辺り~)。
が、トランプ氏の21年1月6日の2つのツイートはバイデン氏の主張に反して、抗議者らに「平和的」であり続けることと「議会警察と法執行機関を支援すること」を呼びかけている。
バイデン氏は「私は過去3年半と同様に大統領の権限の制限を尊重するだろうが、トランプ氏を含め、どの大統領も今後は法律を無視する自由を持つことになる」と述べ、ソトマイヨール判事の反対意見に同調し、大統領は今や「王」であり「法の上に立つ」存在であると示唆した。
むしろバイデン氏こそ、大統領の権力の限界を尊重していない。何十億ドルもの学生ローン債務を一方的に「免除」しようとした際、最高裁は彼の最初の試みを却下した。が、バイデン氏はそれに対して、さらに多くの債務を免除する大統領令を出した。
バイデン氏はこの会見の最後に、多数派に反対した「ソトマイトールに賛成だ」、「民主主義を懸念する」と述べ、記者からの質問に一切応じずに壇上を去った。筆者には、先般の討論での「恍惚」バイデンよりも、最高裁判決を否定する「硬骨」バイデンの方が大統領に相応しくないように思われた。