僕自身もそうだが、日本のみならず現地オーストラリア、お隣ニュージーランド、そしてアメリカ、イギリス、フランス、ドイツetc…世界各地に存在する【MADMAX FUN】たち。
今回のこのイベントも、PART②で紹介したスティーヴ・ショルツ氏や、後に紹介する『MADMAX2 MUSEUM』館長:エイドリアン・ベネット氏などトンでもない熱量を持ったファンたちによる尽力によって具現化されたものが多い…
では、『その魅力』とは一体何なのだろうか?
今回のイベントでも起きた“奇跡”を元に、少しずつ紐解きたいと思う…。

“その出逢い”は、あまりにも突然すぎた…
『WEZ BIKE』そして「マッドマックス2」の全バイクを手掛けた
あの御仁…

 イベント初日の午後頃だったかと思う…PART②のコスチュームコンテストで賞をもぎ取った「ウーマンガス」ことYukoさんがシルバートンホテルの隣に新たに出来たカフェで一人の老ライダーと談笑していた。

今回、我々のブロークンヒル・ツアーはおっさん✕4人の地味な旅で、前回のMM40周年・メルボルン・ツアーで仲良くなったYuko選手も同じ便で同行。アメリカに17~8年住んで居た事もあり、英語はペラペラ。我々の稚拙な英語で伝わらない部分などは彼女に頼りきっていた(な、情けない)
そして、アレコレパチリポチリと撮影していた僕にYuko選手が…
「ピスシンさん。このおじいちゃん、何か凄い人みたいよ?」
と呼びかけた。まぁ、こういう話は「業界アルアル」な話で
『昔、誰ダレと一緒だった』とか『あの有名な誰ソレを知ってる』だとか、そんな程度に受け止めていた。
軽い自己紹介の後、片言の英語で質問して見ると【ガイ・ノリス】という名称が…
そう、我々ファンは知っている。
そして、知らないアナタもフュリオサのパンフレットをよく見て欲しい。
マッドマックスシリーズにおいて数々スタントをこなし、現在では有名な映画でも「アクション考察」等で名を連ねるガイ・ノリスの『師匠』と言うべき方がこの…
『バリー・ガルブランセン<Barry “Gul”Bransen>』氏 その人であった!!

僕は慌てて持っていたGO PROとスマートフォンのボイスレコーダーを回した…

Q:はじめに、あなたの経歴からお教え頂けますでしょうか?
バリー:私は15歳からバイクに乗り始め、17歳でバイクのレーサーやスタントなどを行っていました。そして、ニュージーランドのトライアンフ/ベスパのディーラーで見習いを経てオーストラリアに引っ越し、ゴールドコーストにて『BARRY・BRANSEN・HONDA』をオープンさせました。

Q:そんな1ショップオーナーであったあなたが、どういった経緯でこの「MADMAX2」に絡む事になったのでしょうか?
バリー:当時、私はオーストラリアやニュージランドをショースタントで廻っていました。全身に火を付けて走ったり、火の輪を潜ったり…そんな頃に「ケネディーミラー・プロダクション」のオフィスからの電話を受け、彼らの映画「ザ・ロード・ウォーリアー(MADMAX2)」の為のバイクを探しており、この改造や整備を行ってもらいたい…という依頼でした。
早速、私はシドニー近郊の廃車置場から沢山のバイクやパーツを購入し、これらを組み立て、ブロークンヒルまで運び、俳優やスタント、地元のキャストたちにこれらのバイクの乗り方指導やスタントの為の整備や調整を行いました。

Q:一番にお聞きしたいのが冒頭に出てくる『WEZ BIKE(ウェズ・バイク)』の件なのですが「HONDA」に詳しいあなたが何故「Kawasaki」を選択したのでしょうか? これには製作側(主にバイクやクルマへの造詣が深いバイロン・ケネディー)から特別な指示などがあったのでしょうか?
バリー:車両のセレクトに関してバイロンは特に指定は行いませんでした。当時、それ程の“信頼”を得ていましたから(笑) Z900を選択した理由は、カワサキが“頑丈”で“良いバイク”だったからに他なりません。ホンダを取り扱っていた私が言うのも何ですが…
あと、これは余談ですが、昔から日本のメーカー名はオーストラリアでの俗称があり、Kawasakiこれは「カワ」「サキ」と前後2フレーズでの言い方がしにくいのではKwaka(クワカ)となったワケなんです。ちなみにYAMAHAはYAMMI(ヤミー)、SUZUKIはSUZI(スージー)、HONDAはホンダのままですが(笑)

Q:そうだったんですね(笑) あと、このWEZ BIKE。その外観から『Kawasaki Z900 TURBO改』と認識しているのですが、これは前記のスクラップなどから組み上げたモノなのでしょうか?
バリー:ウェズのバイクは廃車からではなく、実動車のZ900を購入し、製作しました。23台手掛けたバイクのうち、7台がスタントバイクで、3台がZ900だったと記憶しています。
スクラップから…とお話しましたが、私はショップ出身の人間ですので、見てくれは“野性的”でも、その中身は“安全性”を第一に考え「整備」と「修理」を徹底して行っていました。

Q:さすがです! また、このWEZ BIKEに関するパーツ等の情報もお教え頂けますか?
バリー:フェアリングは「ベッター製クイックシルバー」で、ホイールはSUZUKIのGSX系と勘違いされている方もいるようですが、「セブンスターのマグネシウムホイール」で間違いありません。そして、シート。あれは牛革ではなく、実は「カンガルーの革」を使用しており、また過給器(ターボチャージャー)はジャンク品からそれらしいモノを拝借し、これにノイジーなマフラーを装着しました。その方がワルっぽいでしょ?

Q:確かに“悪役”に相応しい仕上がりとなっていますね。その他、このWEZ BIKEでのエピソードなどがあれば教えて頂けますか?
バリー:この『WEZ BIKE』は、MADMAX2の劇中において、マックスの乗るインターセプターの敵役となる“アンチ・ヒーローバイク”でした。TURBOはダミーですが、インターセプターを追いかけるバイクとなると、必須な装備と言えるでしょう。あと、クランクイン直前のワークショップで、監督の「ジョージ・ミラー」の前でWEZ役の「ヴァーノン・ウェルズ」がこのバイクに乗り、運転して見せたのですが、そこで彼は転倒してしまいました(笑) 私は…「ヴァーノン、自信満々で“バイクに乗れる!”って言ってたのに…」と凄く落胆した事を憶えています。

Q:あなた自身は、この映画(MADMAX2)で、どれくらい出演していたのでしょうか?
バリー:私は本編で11カット出演していて、ヴァーノンがタンクローリーに乗り移るシーンのサイドカーは私が運転していました。あと、マックスがトラックで製油所に戻るシーンでフロントガラスに武器を投げるシーンも私が行いましたね。これは成功してジョージ・ミラー監督からシャンパンが2本届いた事を憶えています。

Q:「マッドマックス2・ザ・ロード・ウォーリアー」の後に続く続編「マッドマックス3/サンダードーム」でも、あなたはバイク車両製作やスタント協力などされたのでしょうか?
バリー:「マッドマックス3/サンダードーム」では、私は「スペシャルエフェクト」や「セーフティーサポート」として参加しました、その中にはレイニングマシン(雨を降らせる機械)などの管理も入っていました。その頃、私は自身の映画を作る事なども考えていましたから…

Q:最後に、40年以上経った今、改めてこの「MADMAX2」という作品に対して、どのような「想い」がございますか?
バリー:まずは、監督である「ジョージ・ミラー」とプロデューサーであり、その後、残念ながら事故で亡くなった「バイロン・ケネディー」にはとても感謝しています。
バイロンとはとても仲が良くて、自宅に来てくれた事もあります。
彼らは独自の「哲学」を持っており、「俳優」のみならず、我々「スタッフ」に対してもとてもフレンドリーに接してくれていました。これらは40年以上経った今でも忘れていません…
数百人ものクルーたち全員にこれらを行う事はとてもガッツがいる事なのです。
また、君らの様にこのMADMAXシリーズを愛する世界中のファンたちから色々な質問や感想を述べられる事も大変嬉しいです。
私は現在、ワラビーとカンガルーとトラクターばかりが走るロードを週2回はバイクで走っています。これを読んでいる日本のライダーたちも是非、モーターサイクルライフをエンジョイして下さい!

今回、バリー氏が沢山提供してくれた写真の中で「WEZ BIKE」のフレーム番号が写されたものがあり、「Z1F-40000番代/Z900(A6)」という事が発覚!
現車は一度、アメリカにあるハリウッド映画をメインとしたテーマパーク型レストラン「Planet Hollywood(プラネット・ハリウッド)」が購入し、東京やオークランドで展示した後、アメリカ・ミズーリ州ブランソンにある「The Celebrity Car Museum(ザ・セレブリティー・カー・ミュージアム)」の方に展示されているとの事(※上はその写真)。
尚、セレブレティーが購入した最終金額は27000AUDとの事で、これにはバリー氏も「ビックリした!」との事だった。

バリー氏から送られてきた当時の貴重な写真。
劇中車と言えども、買い出しや移動などには普通に使われるのは「MADMAX(1)」からの流れのようだ。
下左の写真もバリー氏で正座が可愛いw 下中はバイク製作時の写真で、下右は当時のバリー氏のお店のチラシ。

バリー氏とはこのイベント時のみならず、SNSでも繋がり、メッセンジャーを通してこちらの細かい質問にも丁寧に答えてくれ、最終的にはMADMAXイベントで通訳をお願いしているMiaさんのご協力の下、国際通話による口頭でのロングインタビューまで受けて頂き、より詳細な証言を得る事が出来た。
ご多忙にもかかわらず、僕の面倒な質問に全て応えてくれたバリー氏には改めて御礼を申し上げたいと思う…。

尚、こうしてファンたちが「映画を観る」・「質問や疑問が生まれる」・「ファンたちで検証される」・「出演者や関係者に証言を得る」…という一連の流れが、スター・ウォーズシリーズやスター・トレック、BTTF(バック・トゥ・ザ・フューチャー)やワイルド・スピード、DCやマーベルなどの数多くのファンたちを有するメジャー映画以外で、ここまで深く「裏取りを行う映画」というのも、なかなか無いのではなかろうか?
こうした『謎解き』のような要素も【MADMAX】ならではの魅力の一つかもしれない…。

シルバートンホテル横のカフェにて。今回、参加していたシタデル氏(左)とバリー氏(右)
そして、このシタデルさんも数年前から愛車Z1000でのWEZ BIKEレプリカの製作を進めており、
偶然にもこのバリー氏との出会いを超絶喜んでいた。
尚、下がシタデル氏のZ1000/WEZ BIKEレプリカ(ガチTURBOで公認取得予定☆乞うご期待)