バチカンニュース(独語版)は26日、「AIの倫理を求めるために結集することは、全ての宗教指導者の責任だ」と強調している。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3つのアブラハム宗教指導者は昨年、「ローマコール」に署名している。広島の会議では東洋の宗教指導者も集まり、署名する予定という。これにより、この倫理的価値のプラットフォームは実質的に地球上の大多数の人々を結集することになる。なぜなら、地球上の大多数の人々はこれを署名した宗教によって代表されているからだ。
広島でのイベントは「AIの倫理のような重要な問題に対して、多宗教のアプローチが重要だ。宗教は、一人ひとりの尊厳の保護と私たちの共通の家である地球の保全と共に進む発展の概念を形作る上で、決定的な役割を果たす。AIの倫理を求めるために結集することは、全ての宗教が共に歩むべき道だ」というわけだ(バチカンニュース2024年6月26日)。
広島の講演者には、教皇庁生命アカデミーの会長ビンチェンツォ・パーリア大司教、アブダビ平和フォーラム会長でありアラブ首長国連邦のファトワ評議会会長のアブドゥラ・ビン・ベイヤー師、イスラエルの大ラビナートの宗教間関係委員会のメンバーであるエリエゼル・シムハ・ワイズ師などが含まれている。また、米国ノートルダム大学の平和学教授であるリサ・シャーチ、教皇庁グレゴリアン大学の技術倫理教授であり、AIに関する教皇顧問であるフランシスコ修道会士のパオロ・ベナンティ神父も講演する。同神父は「生成AIに関する広島付録」を発表する予定で、これは「ローマコールAI倫理」の不可欠な部分となるという。同神父は国連のAI委員会にも所属している。なお、世界宗教の指導者によるローマコールへの署名式は会議2日目の7月10日に行われる。
「ローマコール」会議に先駆け、フランシスコ教皇は14日、イタリアで開催されたG7サミット会議に初参加し、人工知能の課題について語っている、教皇はAIを「魅力的で不気味なツール」と表現し、AIがもたらす大きな革新には「倫理的な管理」が不可欠であると強調している。すなわち、AIの偉大な能力が常に善のために使われているわけではではないからだ(「国連機関『デュアルユース品目』拡散?」2021年9月30日参考)。
フランシスコ教皇は「私たちが経験している技術革新の時代は、特別で前例のない社会状況が伴う。人間性が喪失し、人間の尊厳の概念が無意味に見えるようになっている。そのため、人工知能のプログラムは人間とその行動が問われることになる。人間の尊厳の相対化が進むことによって現れる倫理の弱さこそ、これらのシステムの導入と発展における最大のリスクとなる」と説明している。そして「私たちが人間の能力を奪われ、自分たちの人生について決定する能力を奪われ、機械の選択に依存するならば、私たちは人類を絶望的な未来に追いやることになる。人間の尊厳自体が危機にさらされる」と述べ、AIを規制する「アルゴリズム倫理」の必要性を説いている(「ロボット軍用犬が戦場に登場する時」2024年6月1日参考)。
AIの規制問題で世界宗教の役割を強調する「ローマコール」は傾聴に値するが、宗教自体が分裂し、紛争の原因ともなっている今日、宗教界のリバイバルが不可欠だろう。もっと厳密にいえば、AIを使用する人間側の倫理の復活がない限り、‘魅力的で不気味なツール’を正しく管理できないのではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。