アベノミクスが大企業を海外に追い出した
マクロ経済的には輸出企業の収益が上がる一方、円の購買力を示す交易条件が悪化したので、海外から原料輸入するエネルギー産業や国内製造業の収益は悪化した。同じお金で買える物でみても、日本人はG7でいちばん貧しくなってしまったのだ。
それでも岸田首相は「デフレ完全脱却」などといって、アベノミクスの延長戦を続けている。日銀の植田総裁はわかっていると思うが、黒田総裁があまりにも大きなバランスシートを残したので、その重荷で身動きがとれない。
今の円安は、金利差だけでは説明できない。本質的な問題は日本の生産性を支えていた製造業が海外に逃げてしまい、国内には規制に守られて生産性の低い非製造業だけが残ったことである。結果的には、アベノミクスは大幅な富の海外移転だった。日本の対外純資産は418兆円と、世界最大である。
これほど短期間に政府が急激な産業空洞化を起こしたのは珍しい。「オフショアリング」はアメリカでは政治的争点になり、州政府が企業の海外移転を禁止したこともあるが、安倍政権は企業を海外に追い出し、円安で自国窮乏化を実現したのだ。
GNIベースでみるとそれは悪いことではないが、トヨタの会長が16億円の報酬を受け取る一方、実質賃金が下がる格差の拡大をもたらした。これはグローバリゼーションの結果なので、賃上げ要請やバラマキ補助金で変えることはできない。
黒田日銀の無謀な金融政策については、ハイパーインフレや国債の暴落を心配する向きが多かったが、金融市場では意外に大きな波乱はなかった。それは国内の資金需要が弱く、自然利子率がずっとマイナスだったためだが、成長するアジアには大きな資金需要があった。日銀のチープマネーは、結果的にはアジアに対する巨額のプレゼントだったのだ。