抗菌作用や高エネルギーだけでなく、「ハイ」になることも目的?
蟻浴の目的については初めて発見されて以来、1世紀以上も専門家たちの頭を悩ませてきました。
しかし現在では、その目的の大きな部分は解明されています。
鳥たちが欲しているのは、アリが防御のために放出する「ギ酸」です。
ギ酸には有害なダニや寄生虫、菌類を寄せ付けないための化学物質が含まれています。
そこで鳥たちはギ酸を体に塗ったり、口から摂取することで、体の内外の殺菌や殺虫効果を得ているのです。
これはコショウの木についても同様の目的があると考えられています。
コショウの木には「ピペリン」という化学物質が含まれており、抗菌性や防虫性の薬効を持っていることが知られているのです。
そのためノーフォーク島のインコはピペリンを体に塗ることで、害虫や寄生虫よけにしていると見られます。
では、発酵した果物についてはどうでしょうか?
これにはより深い進化的な背景があるといいます。
果物は熟すにつれて甘味が増し、栄養価が高くなります。さらに熟成が進むと糖分が発酵し始めて、果物内のアルコール濃度が上昇していきます。
発酵中に生成された揮発性のアルコールは空気中に運ばれ、その芳醇な香りが鳥たちを引き寄せるのです。
鳥たちは発酵した果物を食べることで高いエネルギーが得られ、反対に果物の方は鳥たちに食べてもらうことで、種子を広い範囲に散布することができます。
つまり、発酵した果物が鳥たちを惹きつけることで、双方にウィンウィンな進化的関係が築かれるのです。
しかし専門家らは、鳥たちがギ酸やアルコールのような刺激物を求めるのは、こうした理由からだけではないだろうと考えています。
専門家いわく、「鳥たちは刺激物を求めることで精神的にハイになる状態を楽しんでいるではないか」と推測するのです。
例えば、ノーフォーク島のインコがコショウの木をせっせと噛み砕いて、体に擦り付ける間、彼らは「特別に生き生きしているように見えた」と研究者は話しています。
さらに蟻浴をする鳥たちは、しばしば恍惚状態に達することがあるというのです。
それからアルコール摂取による酩酊状態は、私たちもよく知っているように、血行が良くなって気分が高揚し、疲労感が軽減したり、リラックスムードを高めてくれます。
特にお酒を飲む行為においては多くの人にとって、もはやアルコールから得られる健康メリットではなく、気分を高揚させることがメインとなっているでしょう。
これと同じような作用は、実際に酔っぱらった鳥たちの陶然とした表情からも十分に推察できることです。
以上のことから、私たちヒトだけでなく、鳥たちも遺伝的にアルコールや刺激物を求めてハイになるように進化してきたのかもしれません。
人類が酒飲みになった歴史的背景については、こちらの記事をご参照ください。
人類は遺伝的に「酒飲み」になる運命だった?1億年前に隠された生物進化の秘密
全ての画像を見る
参考文献
Parrots may have evolved to get high on aromatic plants, stinky ants and alcohol
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/parrots-may-have-evolved-to-get-high-on-aromatic-plants-stinky-ants-and-alcohol/
元論文
Apparent anti-parasite behaviour in the Norfolk Island green parrot Cyanoramphus cookii
https://doi.org/10.1111/aec.13525
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。