私たちにとって「水道蛇口のハンドルをひねれば水が出る」ことは当たり前ですが、世界的に見るとそうでもありません。
実際、世界人口の約3分の2が水不足に悩まされており、「2030年までに世界の年間水需要の約40%は満たされない」とも推定されています。
また、水道設備が整っている日本であっても、被災地では、水を十分に利用できない状態が続くものです。
こうした課題に取り組むため、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)に所属するシャンユー・リー氏ら研究チームは、大気中から水を集める新しいシステムを開発しました。
従来のシステムの2~5倍の飲料水を生産できると考えられており、砂漠のような極度に乾燥した地域でも活躍するようです。
研究の詳細は、2024年6月26日付の科学誌『ACS Energy Letters』に掲載されました。
目次
- 大気から水を集めて飲料水を得る方法
- 銅板を挟み込んだ新しい水生成システム!従来の2~5倍の効率
大気から水を集めて飲料水を得る方法
水不足の地域で飲料水を得るための方法は、いくつか存在します。
例えば、汚れた泥水をろ過して飲めるようにしたり、海水を真水に変えたりする技術があります。
しかし、これらの技術は、汚れているにせよ、塩が含まれているにせよ、その場にある程度の水が存在していることが前提です。
では、砂漠地帯のように、極度に乾燥し、水たまりすら存在しない地域では、どのように飲料水を得ることができるのでしょうか。
その方法の1つとして、科学者たちは以前から「空気中から水を収集するシステム」に注目してきました。
これは、空気中から水分を吸収する「吸着剤」を使用して水を集め、それを太陽やその他の熱源で加熱して水を取り出す、という方法です。
この吸着剤にはいくつかの物質が使用されますが、例えば「ゼオライト」が使用されることもあります。
ゼオライトとは、微細な孔を持つ鉱物です。
水分子とゼオライトの細孔の大きさが近いことから、ゼオライトは水分子に対する吸着力が非常に高く、湿った空気から水分子を捉えることができるのです。
しかし、ゼオライトから水を取り出すためには、どうしても加熱しなければならず、従来の太陽光を用いた方法では、効率がよくありません。
そこで今回、リー氏ら研究チームは、太陽光ではなく、排熱を利用したいと考えました。
排熱は、工業プロセスや発電所などで発生する余剰エネルギーの一種であり、通常は無駄になることがほとんどです。
工場などの建物や、輸送車両など排熱が発生する既存のインフラと水生成システムを統合することで、上図のとおり、吸着剤における吸着と脱水のサイクルを高速化できると考えられます。
ちなみに、排熱を利用することで環境負荷も軽減されるため、「持続可能な水供給システム」としての価値も高くなるでしょう。