そういう意味での不透明感はクリアにすべきなのでしょう。
一方で日本は並列の関係を好む民族であり、数百円の差で「あいつは良い評価をもらっている」とやっかみが出る世界でもありました。その中でどうやってジョブ型給与にするのか、口で言うのと実際にやるのではまるで違う困難さがあります。
私の経験ではかつて現地採用だった経理担当者は7年ぐらい務めてくれたのですが、給与更改の面接はいつも苦労しました。彼女はいつも「もっと給与を上げろ」というのですが、私が返すのは「あなたの給与は今の業務内容からすると業界のトップ水準になるのであなたに新たなスキルが身につかない限り物理的に給与を上げる余地がない」と説明し続けました。
つまりジョブ型の場合、出だしは他人より数万円多いといったケースが存在するのですが、何年か経つとその枠組みから更に飛び出すには苦労するケースが生まれるのです。一種の業務専門化促進なので他人より2-3割給与が高い、けれど仕事のできる総合職にはいつか必ず抜かれる運命にあることも多いのです。もちろん、専門能力を生かし更に総合職としてのスキルを磨けば別ですが、今度はそこに人間のメンタル上のハードルがそびえやすいのです。
それは一定の高めの給与に満足する結果、向上心が伸びない問題です。これはご本人にも会社にも必ずしもプラスだとは思えません。日本でジョブ型給与の難しさはこのあたりにあるのでしょう。海外の場合は会社を転々とすることで一段ハードルを上げたジョブへのチャレンジと魅力ある報酬というアメと鞭の関係があるのですが、日本のように同一企業内でのジョブ型給与体系を保守的に維持させるのはある意味、自己矛盾すらはらむ困難なプランだとも言えます。
仕事では向上心を煽ること、そしてチャンスをつかむ機会を与えることで人が働くモチベーションを持つと考えています。私は何年も前にこのブログでこう述べてたことがあります。「大手企業に入社する新入社員はその子会社からスタートさせよ」と。初めから有名企業のおいしいところを味わうと子会社関連会社は流浪とか沖流しというイメージが強いのですが、新入社員がガッツをもち本当の実業を身に着けるには3年ぐらいそこからスタートする方がよいと思うのです。
パナソニックのIT部門が初任給にも差をつける制度にすると報じられていますが、私は長期的な人材教育という意味では間違っているように感じてなりません。「かわいい子には旅をさせよ」なら「できる新入社員は子会社に回せ」であります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月26日の記事より転載させていただきました。