高温ジェットを吐くには「あの虫」の能力が必要
火をつけるのに必要な酸素については空気中にいくらでも浮遊しています。
しかしドラゴンに見られる強烈な火炎放射を実現するには、空気中の酸素を使うだけではまったく足りません。
そこでドラゴンの火炎放射を再現したいなら「ミイデラゴミムシの能力が最適だ」とローチ氏は指摘します。
ミイデラゴミムシは俗に言う”ヘッピリムシ”として有名な甲虫の一種です。
彼らについてはお尻から高温のガスジェットを噴出できることで有名でしょう。
ミイデラゴミムシは腹部に2つの特殊な腺を持っており、片方で「ヒドロキノン」を、もう片方で「過酸化水素」を生成しています。
これらは別々に貯蔵されていますが、天敵に襲撃されると、この2つを特殊な酵素を使って混ぜ合わせ、ヒドロキノンをベンゾキノンに酸化し、過酸化水素を酸素と水に分解します。
このプロセスで大量の熱が発生し、混合物は急速に沸点まで上昇して、ミイデラゴミムシのお尻から強烈なガスジェットとして噴出されるのです。
数センチ足らずの小さな体にも関わらず、高温のガスジェットは約100℃にも達します。
そしてローチ氏いわく、ドラゴンがミイデラゴミムシと同じ機能を搭載していれば、いくつかの大きなメリットがあるという。
1つ目はこの化学反応が強力な高圧を生み出すため、オイル燃料を勢いよく噴出できるようになること。
2つ目はこの化学反応が高熱を発生させるため、オイル燃料が加熱され、燃えやすくなること。
そして3つ目は化学反応のプロセスで「酸素」が発生するため、それをオイル燃料に高濃度で混ぜられることです。
あとドラゴンに必要なのは、ガソリンエンジンのキャブレター(ガソリンを霧状にして空気と混ぜ合わせ、エンジンに送り込む装置)に相当するような生物的な器官でしょう。
これがあれば、オイル燃料を酸素を混ぜ合わせながら、霧のように細かく噴霧できるので、着火もより簡単になるといいます。
では最後に、この可燃性のジェットを引火させるための「熱源」について見ていきましょう。
さあ、奴の力を借りて「火」をつけよう!
ここまでの時点で、ドラゴンが火を吐くための「燃料」と「酸素」が出そろいました。
しかし、これではまだドラゴンの口から高温のジェットが漏れているだけなので、火はついていません。
私たちがドラゴンの前にチャッカマンでもかざせば簡単に火はつきますが、そうはいきませんね。
そこでローチ氏は、ドラゴンに自力で着火させてもらう方法として「デンキウナギの能力を搭載したらいい」と考えます。
デンキウナギはご存じのように、体内に発電器官を持っており、そこから最大800ボルトもの電気を発生させることが可能です。
この発電器官をドラゴンの口内に搭載するとどうでしょう?
ドラゴンが高温ジェットを噴出するタイミングで、口内に短い電気パルスを発生させます。
すると電気パルスが高温ジェットと接触することでスパークし、酸素を豊富に取り込んだオイル燃料が着火されるのです。
これにより、私たちがファンタジー作品でよく目にするドラゴンの強烈な火炎放射が実現するとローチ氏は考えます。
つまり、「フルマカモメ」と「ミイデラゴミムシ」と「デンキウナギ」の能力をまとめて持っていれば、ドラゴンの火炎放射は可能になるのかもしれません。
まだ地球上に当然火を吐く生物なんていませんが、もしここで考察したような機能を一度に獲得する生物が生まれれば、火炎放射を吐き出す生き物がこの世界でも誕生できるかもしれません。
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参考文献
House of the Dragon: if dragons were real, how might fire-breathing work?
https://theconversation.com/house-of-the-dragon-if-dragons-were-real-how-might-fire-breathing-work-232777
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。