巨大な蛇の岩絵は古代の領土の境界を示していた
研究チームがオリノコ川に点在する岩絵の地図を作成・分析したところ、これらの岩絵の配置は意図的なものである可能性が高いと分かりました。
これらは、あえて目立つ場所に配置されており、リリス氏はこれが領土の境界を示すものだったとのではないかと予測しました。
科学者たちは、オリノコ川の地域に、数千年も前から先住民のグループが居住してきたと考えています。
これらのグループが使用した道具や土鍋、物品には独自の特徴があり、それらの証拠から、先住民のグループが、オリノコ川をまるで現代の幹線道路のように使用し、物品や材料を取引していたと分かっています。
そして14世紀に最初のスペイン人宣教師が訪れた時には、少なくとも7つの異なるグループが、互いに、取引・結婚・同盟・戦闘を行っていたようです。
(現代の先住民のグループには、それら古代グループの子孫たちがいるようです)
そうした複数のグループが存在した時代だからこそ、互いの領土を示すものとして、目立つ位置に岩絵が作られた可能性が高いのです。
オリノコ川は古代の先住民たちにとっては移動の要となる幹線道路のようなものでした。その川沿いにある領土の境を示す岩絵は、彼らに現在地や目的地を示す役割があったのでしょう。
これは、ちょうど高速道路を車で走る現代の私たちが、標識を見て「今どのあたりまで来たか」「どこで降りるのか」などを把握するのと同じです。
岩絵は巨大に描かれていて、離れた位置からでも視認できるよう描かれていたと考えられるため、目印として役立っていたのは確かなようです。
ちなみに、多くの岩絵でヘビが採用されていることも、この推測を裏付けるものとなっています。
オリノコ川の地域に住む先住民の間で受け継がれている神話では、ヘビは水源から現れ世界の境となる水路を作った、最後は宇宙に洪水を起こすと伝えられていて創造神・守護者・破壊者として度々登場します。
しかもヘビは、人を死に至らしめる力があることでも有名です。
こうした点からヘビは、「領土を守る存在」「部外者への警告」のモチーフとして描かれるようになったと考えられるのです。
ちなみに、コロンビアのアンティオキア大学(Universidad de Antioquia)に所属し、アマゾンの岩絵を専門とする人類学者フランシスコ・ハビエル・アセイトゥノ・ボカネグラ氏は、今回の研究には携わっていませんが、「この解釈は非常に説得力のあるものだ」と肯定しています。
では、これらの岩絵は、いったいつ頃作られたものなのでしょうか。
リリス氏によると、「作られた年代は未だ証明されていない」とのこと。
しかし、これら岩絵と同等のデザインが、近くの遺跡から発見された小さな壺にも描かれており、その制作は紀元前1000年頃から始まったと推定されています。そのため岩絵も3000年前から作られ始めた可能性があるようです。
この推測では多くが紀元前100年以降ではないかと考えられますが、ただ現状は紀元前8000年(約1万年前)に作られたという可能性も否定できないという。
こうした年代の問題を含め、オリノコ川の岩絵には、まだ謎に包まれた部分が多く、今後も多くの研究と分析を必要としています。
それでも研究チームは、まず「岩絵の保護が急務である」と訴えており、今後、地元の団体と協力して保護活動を推し進める予定です。
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参考文献
2,000-year-old rock art, including nearly 140-foot-long snake, may mark ancient territories in Colombia, Venezuela
Gigantic snake carvings may have been ancient ‘road signs’
元論文
Monumental snake engravings of the Orinoco River
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。